ミドリムシから飼料と肥料を生み出すユーグレナ、国内農家の救世主となるかスマートアグリ(1/2 ページ)

ユーグレナは、東京都内で会見を開き、微細藻類「ユーグレナ(和名:ミドリムシ)」を用いたサステナブルアグリテック事業を紹介した。

» 2023年12月15日 08時30分 公開
[遠藤和宏MONOist]

 ユーグレナは2023年12月14日、東京都内で会見を開き、微細藻類「ユーグレナ(和名:ミドリムシ)」を用いたサステナブルアグリテック事業を紹介した。

バイオ燃料事業に続く第3の柱はサステナブルアグリテック事業

 同社は、2005年12月に世界で初めて食用ユーグレナの屋外大量培養に成功した東京大学発のベンチャー企業で、東大発のベンチャー企業として初めて東証一部(現:プライム市場)に上場した。主力素材として活用している微細藻類のユーグレナは、健康の維持/増進に働く豊富な栄養素と独自成分のパラミロンを含む他、水中の有機物/無機物の取り込みが可能で、高い二酸化炭素の固定力も持つ。加えて、生成する油脂をバイオ燃料として利用できる。

微細藻類「ユーグレナ」の特徴 微細藻類「ユーグレナ」の特徴[クリックで拡大] 出所:ユーグレナ
ユーグレナ サステナブルアグリテック事業部 部長の井上陽介氏 ユーグレナ サステナブルアグリテック事業部 部長の井上陽介氏

 ユーグレナ サステナブルアグリテック事業部 部長の井上陽介氏は「当社では上場の当初から、『食料(Food)』『繊維(Fiber)』『飼料(Feed)』『肥料(Fertilizer)』『燃料(Fuel)』といった『バイオマスの5F』で微細藻類のユーグレナを展開することを構想している。そのため、まず重量単価が高い食料を対象にユーグレナを用いたヘルスケア商品の展開を開始し売り上げを上げた。次の施策として、ユーグレナで生成される油脂を用いたバイオ燃料事業も展開している。これに続く第3の柱として、ユーグレナを用いた飼料や肥料を展開するサステナブルアグリテック事業を行っている」と語った。

「バイオマスの5F」 「バイオマスの5F」[クリックで拡大] 出所:ユーグレナ

 サステナブルアグリテック事業における飼料領域の取り組みでは研究および事業の開発を実施している。研究開発では、油脂を抽出したユーグレナを水産養殖用飼料として活用し、真鯛の成長に悪影響がないことを確かめた。微細藻類のユーグレナと赤い海藻「カギゲノリ」を牛のルーメン液に添加することで、牛のゲップに含まれるメタンの量を抑えられることも分かっている。家畜にユーグレナに食べさせることにより免疫賦活効果を発揮することも一部で確認した。

ユーグレナの飼料領域における取り組み ユーグレナの飼料領域における取り組み[クリックで拡大] 出所:ユーグレナ

 事業開発では、これまでの研究成果を踏まえて、2023年より微細藻類入り飼料の開発に関する本格検討をスタートしている。井上氏は「当社が展開するユーグレナの強みを生かせる分野として、現時点では『既存代替飼料』『環境配慮型飼料』『機能性飼料』がある。しかしながら、国内では年間数千万tの飼料が使われているが、当社のユーグレナ生産拠点である石垣島の拠点は年間数百万トン(t)しか生産できないため、既存飼料の代替は難しい。そのため、ユーグレナを用いた環境配慮型飼料や機能性飼料の製品化の方が早いとみている」と述べた。

 加えて、石垣島のユーグレナ生産拠点では、高品質な食用ユーグレナしか培養していないが、食用より品質を抑え量産しやすい飼料向けグレードの開発も検討しているという。

 肥料領域の取り組みでも研究および事業の開発を行っている。研究開発では、ユーグレナの効果として、作物の収穫量増加や収穫後の鮮度を保持するといった機能性を確認した。「ユーグレナを農地にまくと作物の根張りが良好になることを確かめた。当社ではユーグレナが植物の根と共生する菌根菌を活性化することで根張りを良くすると仮説している」(井上氏)。これらのメリットを踏まえて、既にユーグレナ入りの培養土や有機化成肥料をトライアル販売しており、今後は商品化も予定している。

ユーグレナの肥料領域における取り組み ユーグレナの肥料領域における取り組み[クリックで拡大] 出所:ユーグレナ

 さらに、微細藻類だけでなく、さまざまなバイオマス未利用資源を肥料原料などに変換し、新たな価値を創出する取り組みも行っている。

 一例を挙げると、同社とグループ会社の大協肥糧で共同で実証した農林水産省の委託事業「鶏ふん堆肥の広域流通促進」がある。この事業では、まず鶏卵および豚肉の生産を行うクレストが鶏ふんを堆肥(たいひ)化。大協肥糧がこの堆肥を用いて「鶏ふん堆肥入りペレット肥料」の設計と製造を行い、ペレット堆肥の生産性、製品品質、ハンドリング性を向上した。次に、鶏ふん堆肥入りペレット肥料を七九里農園や他の生産者に提供し栽培試験を実施。続いて、栽培試験で得られた野菜や土をユーグレナが分析した。

農林水産省の委託事業「鶏ふん堆肥の広域流通促進」のイメージ 農林水産省の委託事業「鶏ふん堆肥の広域流通促進」のイメージ[クリックで拡大] 出所:ユーグレナ

 事業開発では、多種多様な原料を使いこなす現場力と作物や気候に応じたオーダーメイドでの肥料開発を強みに持つ大協肥糧が、有機肥料の製造/販売事業を展開している。現在、大協肥糧とユーグレナのR&D部門は連携しながら新たな原料の活用事例創出や商品開発などを推進中だ。

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