医療/介護イノベーションの“砂場”に変貌するシンガポール海外医療技術トレンド(101)(2/4 ページ)

» 2023年11月17日 08時00分 公開
[笹原英司MONOist]

医療/介護ITプラットフォームの共通基盤化・クラウド化も進む

 上記の「2020年シンガポール・ヘルスケア・マスタープラン」や「ヘルスケア産業トランスフォーメーションマップ(ITM)」と並行して、医療/介護ITプラットフォームの構築と整備も進められた。2013年より、保健省およびその傘下のヘルスケアIT企業である総合医療情報システムズ(IHiS、2023年7月21日Synapxeに名称変更)が策定作業を開始したのが、国家レベルの医療ITへの取組や投資を先導する7つのトランスフォーメーションプログラムから構成される「ヘルスITマスタープラン(HITMAP)」(関連情報、PDF)である。図2は、HITMAPの全体像を示している。

図2 図2 ヘルスITマスタープラン(HITMAP)の全体像[クリックで拡大] 出所:Smart Nation and Digital Government Office「Health IT Master Plan (HITMAP)」(2017年)

 保健省/旧IHiSは、HITMAPに準拠して、以下のようなプロジェクトポートフォリオを立ち上げた。

  • 医療における分析利用のための強力な基盤を構築する:
    共通のデータ分析機能、インフラストラクチャ、ガバナンス構造を設定して、疾病の早期検知とより個別化された患者ケアを実現するような、人口に関する実行可能な洞察を加速させる
  • ポピュレーションヘルスのイニシアチブをステップアップさせる:
    シンガポールの人々がよりよく健康を管理・向上させるよう動機づけるために、さまざまなスマートヘルスアプリケーションや技術が導入されてきた。これには、ワンストップ消費者健康ポータルである「HealthHub」、コミュニティーにおける便利なケアのための遠隔医療プラットフォーム、在宅ケアサービスおよび製品のためのオンラインマーケットプレースである「Health Marketplace」が含まれる
  • 中長期的ケア(ILTC)とプライマリーケアセクターをデジタル化してつなぐ:
    これにより、保健医療全体に渡る継ぎ目のない接続性と情報フローを可能にして、1つのケア提供者から次に向けて、患者ケアの移転や調整を拡大提供する。提供者はまた、ケアの継続性のために準備された患者記録へのアクセスによる業務効率性の向上から、便益を受ける

 その上で、表1に示す通り、7つのトランスフォーメーションプログラムを設定した。

表1 表1 ヘルスITマスタープラン(HITMAP)のトランスフォーメーションプログラム[クリックで拡大] 出所:Smart Nation and Digital Government Office「Health IT Master Plan (HITMAP)」(2017年)を基にヘルスケアクラウド研究会作成

 このうち、(2)ポピュレーション・イネーブルメントでは、シンガポール市民向け個人健康記録(PHR)の「My Health Record」(関連情報)、(3)ケアの予防と継続性では、「全国電子健康記録(NEHR)」(関連情報)、(4)プロバイダーのケアと業務運用の卓越性では、プライマリーケア向け電子医療記録(EMR)と臨床管理システムの「GPconnect」(関連情報)、(7)IT基盤と強靭性では、医療/介護施設向けプライベートクラウドサービスの「H-Cloud」(関連情報)が構築/運用されてきた。なお、シンガポール市民のPHRへのアクセスや情報共有においては、「スマートネーションシンガポール」の中核サービスである国家デジタル認証(NDI:National Digital Identity)の「Singpass」(関連情報)が利用されている。

 日本では、内閣府の医療DX推進本部(関連情報)が、2023年6月2日に「医療DXの推進に関する工程表」を決定、公表しているが、工程表の実行に必要なプラットフォーム技術をみると、シンガポールがコロナ禍前に導入、運用していたコンポーネントが大半を占めている。シンガポールの場合、旧IHiS(現Synapxe)が、国家レベルのヘルスIT関連プロジェクトにおけるプロジェクトマネジメントオフィス(PMO)として機能しており、保健省と各ベンダー/サービスプロバイダーの橋渡し役として、情報システムの企画・設計から運用までのライフサイクル全体を管理するガバナンス/ゲートウェイ的な仕組みを持っている点が強みだ。

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