上記の「2020年シンガポール・ヘルスケア・マスタープラン」や「ヘルスケア産業トランスフォーメーションマップ(ITM)」と並行して、医療/介護ITプラットフォームの構築と整備も進められた。2013年より、保健省およびその傘下のヘルスケアIT企業である総合医療情報システムズ(IHiS、2023年7月21日Synapxeに名称変更)が策定作業を開始したのが、国家レベルの医療ITへの取組や投資を先導する7つのトランスフォーメーションプログラムから構成される「ヘルスITマスタープラン(HITMAP)」(関連情報、PDF)である。図2は、HITMAPの全体像を示している。
保健省/旧IHiSは、HITMAPに準拠して、以下のようなプロジェクトポートフォリオを立ち上げた。
その上で、表1に示す通り、7つのトランスフォーメーションプログラムを設定した。
このうち、(2)ポピュレーション・イネーブルメントでは、シンガポール市民向け個人健康記録(PHR)の「My Health Record」(関連情報)、(3)ケアの予防と継続性では、「全国電子健康記録(NEHR)」(関連情報)、(4)プロバイダーのケアと業務運用の卓越性では、プライマリーケア向け電子医療記録(EMR)と臨床管理システムの「GPconnect」(関連情報)、(7)IT基盤と強靭性では、医療/介護施設向けプライベートクラウドサービスの「H-Cloud」(関連情報)が構築/運用されてきた。なお、シンガポール市民のPHRへのアクセスや情報共有においては、「スマートネーションシンガポール」の中核サービスである国家デジタル認証(NDI:National Digital Identity)の「Singpass」(関連情報)が利用されている。
日本では、内閣府の医療DX推進本部(関連情報)が、2023年6月2日に「医療DXの推進に関する工程表」を決定、公表しているが、工程表の実行に必要なプラットフォーム技術をみると、シンガポールがコロナ禍前に導入、運用していたコンポーネントが大半を占めている。シンガポールの場合、旧IHiS(現Synapxe)が、国家レベルのヘルスIT関連プロジェクトにおけるプロジェクトマネジメントオフィス(PMO)として機能しており、保健省と各ベンダー/サービスプロバイダーの橋渡し役として、情報システムの企画・設計から運用までのライフサイクル全体を管理するガバナンス/ゲートウェイ的な仕組みを持っている点が強みだ。
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