コロナ禍で製造業のマーケティング手法もデジタルシフトが加速した。だが、業界の事情に合わせたデジタルマーケティングを実践できている企業はそう多くない。本連載では「製造業のための正しいデジタルマーケティング知識」を伝えていく。
今回は、筆者のベンチャー企業での経験も交えつつ、新規事業を推進する際のマーケティングの役割と、そこにおけるデジタルマーケティングの活用について考えてみたい。新規事業の推進といっても、さまざまなシーンが想定されるため、前提を合わせるために下記の3段階に分けて考える。
上記の(3)は既存事業のマーケティングの考え方に近いため、ここでは新規事業の検討段階である(1)と(2)に着目して考察する。
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既存事業におけるマーケティングの役割は、「製品(サービス)のことを知ってもらい、その有益性を伝えて採用してもらうこと」となるだろう(コーポレートブランディングを除く)。分かりやすく言うと「買ってもらうこと」が最終目標となる。
一般的なマーケティングの定義として「売れる仕組みを作ること」「販売を不要にすること」が挙げられるが、これらは販売するものが明確に決まっている既存事業におけるマーケティングの役割としては適切である。前述した新規事業推進の(3)の段階においては、販売する製品(サービス)が確定しているので、マーケティングの役割も既存事業と同じことが求められる。
しかし、(1)や(2)は売るものが明確に決まっている段階ではない。コンセプトレベルの考えはあっても、具体的な商品像がなかったり、説明するためのコンテンツがそろっていなかったりする。そのため、「買ってもらうこと」を目的としたマーケティングを実施するのは難しい。
では、この段階でのマーケティングの役割は何だろうか? 筆者は「新規事業の方向性を決めるために、市場のニーズや情報を集めること」であると考えている。ここで言う事業の方向性とは、「製品のデザインや機能」だけではなく「ターゲットとする顧客」や「ニーズ(課題)」なども含む。
新規事業推進の(1)や(2)の段階では、製品(サービス)を売ることではなく、ユーザーの意見を聞いて、アイデアの正しさを証明したり、修正点に気付いたりすることが重要である。そのため、マーケティングでは、新規事業のイメージを示しながら市場と対話することが重要になる。
ここからは、新規事業のマーケティングにおいて、具体的にどのような手段を用いて市場の情報を集めるのか、その中でデジタルマーケティングをどのように活用するのか、を考えてみたい。
そもそも、新規事業を実現するには、事業計画で作成した仮説をさまざまな方法で検証して、気付いたことをフィードバックしていくことが大切である。例えば、Webなどでリサーチした結果、「子どもがいる30〜40代の女性向けに、○○という製品を作れば500円で売れるだろう」という仮説を立てて、市場規模を調べ、想定シェアを考慮して収益計画を練る。その製品アイデアのイメージを製作して対象となる顧客に聞いてみたところ、実際に「500円で欲しい」と言った(言わない)という結果を得て、事業計画を修正するというサイクルを回す必要がある。
下記の図は、テクノポートの新規事業の教育で用いているテキストの一部であるが、この仮説検証のサイクルを回して、より精度の高い事業計画を作ることが求められる。
仮説検証の手段として「プレゼンテーションによるヒアリング」「アンケート調査」「プロトタイプを使ったPoC(実証実験)」「Webサイトやメディアでの発信」などがあるが、それぞれの位置付けは、下記の図のように整理できる。左の領域は、ヒアリングや実証実験などアナログ主体のマーケティング領域で、デジタルマーケティングが役立つのは、右の「調査対象が広い領域」になる。ただし、右の領域を有効に調査するには、左の領域での情報収集が不可欠である。その具体例を、冒頭で示した(1)と(2)の段階ごとに次ページで説明する。
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