京セラは、「CEATEC 2023」において、高品質なGaN結晶層を形成する技術により、高い歩留まりと低コストでマイクロLEDやマイクロレーザー基板を作成できる新工法を紹介した。同技術は「CEATEC AWARD 2023」におけるアドバンストテクノロジー部門のグランプリを受賞している。
京セラは、「CEATEC 2023」(2023年10月17〜20日、幕張メッセ)において、高品質なGaN(窒化ガリウム)結晶層を形成する技術により、高い歩留まりと低コストでマイクロLEDやマイクロレーザー基板を作成できる新工法を紹介した。同技術は「CEATEC AWARD 2023」におけるアドバンストテクノロジー部門のグランプリを受賞している。
次世代の光源として期待されているマイクロLEDだが、現状ではGaNの形成の製造難易度が高かったり製造コストが高かったりする課題があり、普及拡大の阻害要因となっていた。
従来のGaN系光源デバイス(LED、レーザー)には、サファイア基板やGaN基板が使用されている。GaN系光源デバイスは、基板を1000℃以上に加熱し、原料となるガスを供給することで、光源となるデバイス層(GaN層)を成膜し、デバイス層を基板と一緒に分割することで作る。ただ、微細化を進める上では3つの課題があった。
1つ目が、デバイス層の剥離が困難である点だ。微小光源を作るためには基板上でデバイス層を1つ1つ光源に分割しデバイス層を基板から剥離することが必要だが、微小化が進むとその難易度は高まることになる。2つ目が、欠陥密度が高く品質にばらつきが出る点だ。微小光源はサファイア基板やシリコン(Si)基板上にデバイス層(GaN層)という原子構造の異なるデバイスを成膜するため、それぞれの基板で発生する欠陥の影響を引き継ぎ多くの欠陥が生まれてしまう。3つ目が製造コストが高い点だ。GaN基板やサファイア基板は高価で、一方で安価なSi基板を使うと基板からデバイス層を剥離することが難しい。
京セラが開発した新工法はこれらの課題を解決するものだ。まず、低コストで大口径化が可能なSi基板上にGaN層を育成する。その上にGaN層が成長しない材料でマスキングをし、中央に開口部を形成する。その後、GaN層を成膜すると、マスキングしていない部分からGaNの成長核が開口部上に成長する。成長核であるGaN層は成長する初期段階で欠陥が多く発生するが、それを横方向に成膜することで、欠陥密度が低く高品質なGaN層の成膜が可能となる。この低欠陥領域にデバイスを形成するという仕組みだ。
新工法では、マスキングにより基板とGaN層の結合を抑制できるので、基板とデバイスの剥離が容易になる。また、低欠陥領域を成膜できるため、ばらつきのない高品質なデバイス層を作ることができる。さらに、新工法では安価なSi基板からデバイス層(GaN層)の剥離を実現するため、製造コストの削減に貢献する。同技術を使い、超低欠陥な独自EGOS(Epitaxial lateral overgrowth GaN on silicon substrate)基板を形成し100μm長レーザーの発振を実現している。
応用範囲の広そうな新工法だが、そもそもこれらの方法を発見したのは偶然だったという。「当初はとにかくデバイス層の剥離をしやすくする仕組みを探しており、マスキングによりデバイスの接点が小さくなればはがれやすくなるのではないかと考えて開発した。GaN結晶が立体的に成長する中で、横方向に成膜することで、欠陥が表れにくくなるという特性は偶然見つけた。GaN微小光源の製造に使えることも工法を開発した後に気づいた」(開発担当者)。ただ、逆に思いもよらない発見だったからこそ、マイクロLEDの製法などに注目が集まる中で「技術的に先行することができた」(開発担当者)としている。こうした新たな可能性が評価を受け、CEATEC AWARD 2023でもアドバンストテクノロジー部門 グランプリを受賞している。
今後は新工法によるマイクロLEDやマイクロレーザーを活用した用途開拓や新領域開拓に取り組む方針だ。100μm共振波長レーザー素子にも応用可能で、車載用の透明ディスプレイやAR(拡張現実)/VR(仮想現実)用スマートグラスの微小光源などでの活用などを提案する。また、自動車用ヘッドライトに使用した場合、マイクロLEDで詳細の光源の制御が可能となることから、対向車のドライバーがまぶしいと感じる光源だけを消灯するような応用例なども紹介した。マイクロLEDはディスプレイなどでの活用も期待されているが「ディスプレイ領域も当然検討するが、特に高品質なマイクロLEDが求められているディスプレイ領域以外の用途開拓に期待している」(開発担当者)としている。
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