MONOist もともと欧州などが進めるデータ規制の動きへの対抗軸として生まれたということでしょうか。
和泉氏 欧州がGAIA-XやCatena-Xを進める中で、その仕組みを世界に広げるために地域ハブなどを作り、各地の企業を取り込もうという動きがあるのは認識しています。しかし、こうしたやり方は世界の他の国の人々に欧州のパスポートを発行することを良しとするような動きだと考えます。本来のパスポートは住んでいる国や地域が発行し、旅先の国に対し入国の保証と安全の確保をお願いするものです。文化や地域性の違いがある中で、パスポート登録そのものを欧州で行うのはいろいろとゆがみを発生させます。パスポート登録は日本で行い、欧州のさまざまな仕組みとの相互認証や相互接続を行うことが本来のあるべき姿だと考えます。
日本ならではのさまざまな法規制やルール、デジタルプロダクトパスポート制度、データ連携基盤をそれぞれ切り分けて整備をし、それぞれのレイヤーで他国で調整や連携を進めていく形が理想だと考えています。ルールの調整は政府間で、その他の相互接続面では民間で行うような仕組みです。そのデータ連携基盤としてウラノス・エコシステムがあるということです。
ちなみに、当初はこのデータスペース構想には名前がありませんでしたが、経済産業大臣が西村康稔氏に「広くアピールするためには名前が必要だ」と強く押してもらい、2023年「G7群馬高崎デジタル・技術大臣会合」でウラノス・エコシステムという名前を発表しました。ウラノスはギリシャ神話で天空の神を意味し、最適な形でシステム連携して新たな価値を共に創出していくエコシステムを表現しています。たまたまですが、ギリシャ神話の中ではウラノスはガイアの夫(息子でもある)であり、欧州の進めるGAIA-Xと親和性が高いのではないかと国際会議の場で盛り上がったりもしたそうです。
MONOist 現在カーボンニュートラルなどで米国企業もサプライヤーにデータの共有を要求するような動きも出ています。こうした対企業からの要求に対してもウラノス・エコシステムを活用することは可能なのでしょうか。
和泉氏 基本的には企業同士の直接の取引関係に踏み込んで制度や仕組みを変えることは考えてはいません。直接取引があるということは対話できる環境にあると思いますので、その中で取引条件などを調整していくことが求められます。ウラノス・エコシステムにおける政府の役割は、国や地域による規制が発生する場合に、相互調整できるようにルール整備を行うところだと考えています。もちろん、ウラノス・エコシステムで共有できるようにしたデータを取引先に提供するような使い方もできますが、そこは個々のシステムの使い方の範疇(はんちゅう)に入る話だと考えます。
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