日立製作所は、プライベートイベント「Hitachi Social Innovation Forum 2023 JAPAN」において、過酷環境下で人間の代わりに複雑な作業を行う柔構造作業ロボット「HUMALT(ヒューモルト)」を披露した。
日立製作所は、プライベートイベント「Hitachi Social Innovation Forum 2023 JAPAN」(2023年9月20〜21日、東京ビッグサイト)において、過酷環境下で人間の代わりに複雑な作業を行う柔構造作業ロボット「HUMALT(ヒューモルト)」を披露した。強い放射線にさらされる福島第一原子力発電所の廃炉作業での利用を想定しており、調査活動であれば既に実機投入可能な段階まで開発が進んでいる。
2012年に開発を開始したHUMALTは、モーターやセンサー、電子回路などのエレクトロニクス部品を一切搭載せず水圧シリンダーとバネだけで動作し、大気中だけでなく水中でも作業を行え、整地されていない場所やはしごの上り下りなど多様な作業にも対応できることを特徴としている。展示したHUMALTは、移動用のキャタピラー上に1本の作業アームを搭載する実証モデルだが、犬や猫のような4脚のモデルや、4脚モデルに腕が2本ついた4脚2腕モデルなど、用途に合わせて構成を柔軟に変えられる。可搬質量は作業アーム1本で約10kgとなっている。
また“柔構造”とある通り、廃炉作業で想定される狭い空間でさまざまな障害物に衝突しても問題を起こさないように、水圧シリンダーとバネによる弾性構造によって自身や周囲を破損させないことも特徴である。この“柔構造”によって作業対象へのならい動作が可能になり、正確な位置決めを行わなくても作業を進められる。例えば、チェーンブロック操作、コネクター接続、ボルト/ナットの操作、汎用ツールの使用、バルブ操作といった人間が行う作業を代替できる。これらの機能から、廃炉作業で最も困難とされる燃料デブリ取り出しに向けたさまざま作業で活躍が期待されている。
HUMALTの操作は、水圧シリンダーに水を送排出するパイプと水圧ポンプを介して行う。水圧シリンダーの各軸にどのような水圧を加えればアームや脚、キャタピラーがどのように動くかを把握しており、ボタン式の操作ユニットやタッチパネルなどを用いて遠隔操作する。
HUMALT自身はカメラやセンサーを搭載していないが、HUMALTの移動範囲内で放射線レベルの低い撮影可能な場所にカメラを設置し、そのカメラ映像と連携することで地図生成や経路生成、自己位置推定を行いながら移動範囲を広げていく。「HUMALTが移動してカメラを新たに設置する場所を見つけて陣地を広げるイメージだ」(日立の説明員)。カメラ映像の活用は移動だけにとどまらず、AI(人工知能)による作業対象の認識技術も活用して複雑な作業の自動化も実現していく考えだ。
1種類のHUMALTでは、廃炉作業の全ての環境には対応できない可能性が高い。そこで、アームの挙動や可搬質量などを確認するシミュレーターを用意しており、これによって新たなHUMALTの設計と試作のリードタイムを短縮することが可能だという。
なお、HUMALTの名称は「人(Human)の代わり(Alternative)」に由来している。
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