業務効率化の道具箱(15)ツールを作るより難しい「業務改善の進め方」山浦恒央の“くみこみ”な話(168)(3/3 ページ)

» 2023年08月17日 07時00分 公開
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6.改善案の詳細

 というわけで今回の改善案は、ネット注文システムから配送業者のシステムに合致する注文データを出力する機能を追加するために、「自分でツールを作る」を行うこととなりました(図3)。

図3 改善後のイメージ 図3 改善後のイメージ

 図3が改善後のイメージです。ネット注文システムに入った注文データを、注文データとして外部ファイルに出力します。その後、配送業者のシステムに入力します。これで出力したデータをそのまま取り込めます。

 また、ソフトの改修作業も、注文情報をファイルに出力するだけなので、大きな工数がかからないことから、この方向性で進めました。その結果、配送業者のシステムでの入力作業の大部分を自動化できています(多少のGUI操作は必要ですが)。

7.店側への説明

 改善案を考えた後は、店側に了解を取らねばなりません。筆者は、下記のように説明を行いました。

  1. 実作業をしてみた結果、配送システムの入力に時間がかかっている
  2. コピペしているが、入力ミスで手戻りがある
  3. 新プロセスは、現状の業務フローには影響を与えない
  4. ソフト修正が容易で、工数が大きくかからない
  5. プログラムの修正によるバグが発生しても、顧客側に影響を与える可能性が著しく低い

 上記を説明し、改善案を店側から了承を得られました。

8.改善後の反応

8.1 よかったこと

 配送業者のシステムの入力作業が簡単になったため、発送処理の作業時間の短縮とミスの低減ができました。特に、繁忙期(例えばクリスマスやお歳暮)には、非常に件数が多いため非常に効果があったそうです。また、この改善案により浮いた時間を「接客の時間の増加」「品出し」などの作業に割り当てられました。

8.2 運用時の問題点

 改善案の全てが順調に進んだわけではありません。運用時には、少なからず問題点がありました。

8.2.1 バグの発生

 改善案の導入初期は、注文データの出力機能にバグがあり、配送業者のシステムにデータが正しく読み込めない事象が発生しました。従業員さんは、バグが発生するたびに、業務が中断されてしまい、従来の作業を行っていたそうです。

 従業員さんは、「何のための改善なのだろう」と思ったことでしょう。

8.2.2 一部の従業員しかやってくれなかった

 一部の従業員さんは、今回の改善プロセスではなく、従来の業務フローで作業をしてしまい、改善案の浸透に時間がかかりました。その従業員さんからすると、改善活動は慣れ親しんだ作業を変えることになるため、負担となっていたかもしれません。もう少し、丁寧に説明し、歩み寄ることが必要だったと思います。

9.終わりに

 今回は、「自分でツールを作る」に着目して、小規模な業務効率化のケーススタディーを紹介しました。改善策としてはもっと良い方法があったかと思いますが、今回最もお伝えしたかったことは「業務改善の進め方」です。

 10人規模の非常に小さな組織であっても、慣れ親しんだ従来の業務を変更することは簡単ではありません。必ず、効率化に対する「抵抗勢力」が起こります。特に、現場で行われる複雑な業務を改善しようとすると、「効率化に時間がかかる」「メンバーから反発がある」と、必ず反対派から文句が出ます。この問題は、「ソフトウェアの改善」や「プロセスの効率改良」ではなく、社会学や心理学の範囲の課題かもしれません。

 前回記事の冒頭で挙げた「コロナ禍における問答無用のシステム化」の事例は、誰も効率化に対して文句が言えず、システム化が一気に進んだ例外的な事例でしょう。今では、コロナ禍の最中のような「劇的なシステム化」は期待できません。業務の中で効率化しやすいところに着目し、なるべく小さい範囲で改善のループを回していくとよいと思います。

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【 筆者紹介 】
山浦 恒央(やまうら つねお)

東海大学 大学院 組込み技術研究科 非常勤講師(工学博士)


1977年、日立ソフトウェアエンジニアリングに入社、2006年より、東海大学情報理工学部ソフトウェア開発工学科助教授、2007年より、同大学大学院組込み技術研究科准教授、2016年より非常勤講師。

主な著書・訳書は、「Advances in Computers」 (Academic Press社、共著)、「ピープルウエア 第2版」「ソフトウェアテスト技法」「実践的プログラムテスト入門」「デスマーチ 第2版」「ソフトウエア開発プロフェッショナル」(以上、日経BP社、共訳)、「ソフトウエア開発 55の真実と10のウソ」「初めて学ぶソフトウエアメトリクス」(以上、日経BP社、翻訳)。


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