そこでまず、現在の業務の問題点を整理するために以下のような取り組みを進めました。
筆者は、まず、筆者の友人に実業務を経験してもらい、店の問題点を共有しようと考えました。理由は、従業員と同じ目線で物事を考える方が、問題点を認識しやすいと考えたためです。そこで、筆者の友人にアルバイトとして週1回、業務に入ってもらいました。
友人は、商品知識や接客経験はありませんが、IT系の基本知識があり、簡単なプログラミングはできます。よって、店側の問題点を共有できれば、改善提案が行いやすいと考えました。
友人の業務習熟度が高まったタイミングで、大まかな業務フローを確認しました(図1)。
図1は、大まかな業務フローを示したものです。まずは、清掃などの開店準備を行い、開店します。開店後、ネット注文内容を確認し、商品を箱詰めした後、配送業者に渡します。ネット注文の確認と発送作業が終了後、店頭の品出しを実施する流れです。なお、並行して店頭の接客対応を行っています。
友人に、業務の問題点をヒアリングすると、配送業者のシステム向けの入力作業に少し問題があることが分かりました(図2)。
図2は、問題点のイメージです。ネット注文システムと配送業者のシステムは別で(1本の道で連続的に流れず)、ネット注文システムに注文が入ると、友人が手作業で、配送に必要な情報を配送業者のシステムに入力し直す必要がありました。
同店の従業員は、注文システムに入った注文データを確認し、配送業者のシステムに再度入力していました。データをコピペするだけですが、中間に人間が介入するため、「複数件注文が入ると入力に時間がかかる」「コピペミスによって手戻りが発生する」という事象が発生します。
この問題点は、従業員さんも気づいているようで、「もっと楽な方法があるのだろうけど、どうすればいいか分からない」という状態でした。
問題点を整理した上で、以下のような改善案の方針を固めました。
一般のITエンジニアの頭の中では、今回の課題の解決は極めて簡単に思えますが、実際の現場の問題として、図1に示した全ての業務を一気に効率化することは簡単ではありません。まずは、システム変更の時間とコストが必要となります。また、業務フローの大幅変更が必要で、従業員の負担になります(作業変更の訓練が必要になります)。そこで、図2で示したネット注文システムと配送業者のシステムの小さな範囲内のやりとりの改善のみに着目し、その後、徐々に全体に広げていくことにしました。
エンジニアリングの基本として、問題のあるシステムを一瞬で理想のシステムに変更することは「簡単」ですが、「現実的」ではありません。これをやると、例えば、江戸時代の政治を一足飛びで平成や令和時代のシステムに変革するようなもので、社会的に大混乱が発生します。最善のゴールが見えていても、一気に変更すると混乱します。これが「理想」と「現実」の乖離(かいり)であり、担当者の現実を考えねばならない「エンジニアリング」の難しいところです(これが「科学(サイエンス)」と「工学(エンジニアリング)」の大きな違いと言えます)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.