次に、樹脂に対する塗装について解説します。樹脂への塗装も金属部品と同様に、樹脂の色や質感を表現するだけでなく、傷や紫外線の保護などの役割もあります。調色やコストの観点では金属への塗装と共通する部分も多分にあります。
留意点としては、塗料がのりやすい樹脂(ABS、PS(ポリスチレン)、PC-ABSなど)と、塗料がのりづらく前処理が必要な樹脂(POM(ポリアセタール)、PP(ポリプロピレン)、PPS(ポリフェニレンサルファイド)など)があるため、材料ごとに適切な塗装工程を踏まなければ塗料がすぐに剥がれてしまうことがあります。しかし、金属と比べると、取り得る選択肢は比較的少ないため、いくつかの塗料の種類と母材ごとの対応だけを押さえておけば、おおよそのデザイン要望には対応可能です。
樹脂部品の塗装では、一般的にスプレー系の塗料が使用されます。塗料種類としては、光沢を出すことができるウレタン、塗り直しできる水性アクリル樹脂、乾きやすい油性アクリル樹脂、密着性の高いラッカーなどがあります。また、「UV塗装」といって、紫外線を照射することで固まる特殊な塗料を用いた塗装も昨今では樹脂向けに使われるようになってきており、耐熱性、耐薬性、耐摩耗性などに優れている点が特徴です。その一方で、UV塗装は加工コストが高く、塗り直しも困難なため、管理の難易度が高いことも認識しておくべきです。
金型で成形する樹脂部品は塗装をせずとも、材料色やシボ加工だけで、ある一定の表現が可能です。従って、費用の観点では、まずは材料色やシボだけで目的の意匠を再現することを目指し、どうしても色が表現できない場合、またはカラーバリエーションが必要な際の打ち手として、塗装という加工手段を備えておくことを推奨します。一方、試作に関しては、材料色やシボが選べない場合が多いため、塗装で量産相当の外観を再現することを目指すケースが多く見られます。
以上、まずはデザイン要求をかなえる技術として頻出の5種類の加工技術について紹介しました。次回はフィルムや印刷技術など、さらに具体的な表現を行いたい場合の加工技術(残り5選)について説明します。
なお、本稿は最低限必要な技術分類での解説にとどめていますが、実現場ではこれら加工技術はさらに細分化され、指示、設計されることもあります。また、それぞれの加工技術には、本稿では解説し切れていない深みのある情報もまだまだあります。もし、今後これらの加工技術を実際に使用する機会があれば、ネットの情報だけでなく、技術を保有するサプライヤーや専門コンサルタントにも相談すること、少なくとも実サンプルを手元に置いて検討を進めることを強くお勧めします。
製品のデザインを良くするためには、デザイン要求と開発全体のバランスを考慮した、適切な加工技術の選択が重要です。設計者として推し進めたいデザインがあるのであれば、ぜひ本稿を参考にして、加工技術の選定に取り組んでみてください。 (次回へ続く)
菅野 秀(かんの しゅう)
株式会社346 創業者/共同代表
株式会社リコー、WHILL株式会社、アクセンチュア株式会社を経て、株式会社346を創業。これまで、電動車椅子をはじめとする医療機器、福祉用具、日用品などの製品開発および、製造/SCM領域のコンサルティング業務に従事。受賞歴:2020年/2015年度 グッドデザイン大賞(内閣総理大臣賞)、2021年/2017年度 グッドデザイン賞、2022年 全国発明表彰 日本経済団体連合会会長賞、2018 Red dot Award best of best、他
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