道なき道を走るパートナー、不整地走行のエキスパート集団「CuboRex」越智岳人の注目スタートアップ(9)(1/4 ページ)

不整地を走行するロボティクス技術を武器に成長を続けるハードウェアスタートアップのCuboRex。同社の創業から現在に至るまでの経緯と強みの源泉について、代表の嘉数正人氏に話を聞いた。

» 2023年08月01日 09時00分 公開
[越智岳人MONOist]
不整地走行のエキスパート集団、CuboRex 代表取締役の嘉数正人氏 画像1 不整地走行のエキスパート集団、CuboRex 代表取締役の嘉数正人氏[クリックで拡大] ※撮影:筆者

 農地や建設現場と、ロボットの研究開発という対極にある市場で成長中のハードウェアスタートアップ「CuboRex(キューボレックス)」。不整地を走行するロボティクス技術に強みを持ち、農作物や建設資材の運搬用の他、ロボットの研究開発用のクローラーユニットなどを手掛け、ニッチだが決してなくならない市場をピンポイントで開拓している。同社の創業から現在に至るまでの経緯と、強みの源泉を取材した。

ニッチな市場でヒット製品を生み出す「CuboRex」の2つの主力製品

 CuboRexは農地や建設現場などの不整地向けの機器を開発するハードウェアスタートアップだ。

 現在の主力製品は2つある。1つは電動のクローラーユニット「CuGo」だ。モーターとクローラーが一体化した走行モジュールで、ロボットの足回りに利用できる。用途に応じてCuGo同士を連結させて運用したり、汎用(はんよう)アルミフレームと組み合わせた荷台でより大きなものを運搬したりすることが可能だ。主に企業や大学、研究機関の研究開発用途として販売している。

CuboRexの「CuGo」シリーズ(写真はCuGo V4)。2023年6月にはROS(Robot Operating System)開発キットもリリースするなど、製品バリエーションを増やしている 画像2 CuboRexの「CuGo」シリーズ(写真はCuGo V4)。2023年6月にはROS(Robot Operating System)開発キットもリリースするなど、製品バリエーションを増やしている[クリックで拡大] 出所:CuboRex
汎用アルミフレームと組み合わせることで拡張性も担保 画像3 汎用アルミフレームと組み合わせることで拡張性も担保。クローラー部分には不整地走行のノウハウが詰まっている[クリックで拡大] ※撮影:筆者

 CuGoのユニークな点は、利用用途をユーザーに委ねているところだ。リモート操作が可能なクローラーというシンプルな構成で、組み立て時間は20分程度。価格も小型モデルであれば20万円台から導入可能だ。主に不整地で活用する機械の足回りに採用されることが多く、農作物の収穫サポート用ロボットや草刈り/除草剤散布ロボット、工場内の無人搬送車(AGV)など、さまざまな搬送ロボットの研究開発を下支えしている。

 これまでにシリーズ全体で約900ユニットの販売実績があり、国内大手メーカーもロボットの研究開発用途に導入するなど、ニッチ市場のヒット製品となりつつある。

 もう1つの主力製品が一輪車電動化キット「E-cat kit」だ。土木工事現場や農場などで使う一輪車(ネコ車)を後付けで電動化できるキットで、運搬時の労力を30〜50%程度軽減できるため、高齢化や労働力不足に悩む現場での活躍が見込める。

基礎工事の現場で稼働する「E-cat kit」 画像4 基礎工事の現場で稼働する「E-cat kit」[クリックで拡大] 出所:CuboRex

 E-cat kitは1台15万円台と個人の農家でも導入できる価格帯であり、簡単に取り付けられる点も高く評価されている。これまでに累計1400台以上を売り上げ、2023年の夏からは防水性を向上させた新モデル(後述)を販売する。

 CuboRexの開発哲学は非常にシンプルで明確だ。それは「人間が苦しんでいる作業を、低コストかつ小型化して提供すること」だ。

 労働人口の減少に伴う人手不足からロボットの導入が進んでいるといわれているが、実際には大手企業が運営する大規模な工場や物流倉庫など、その導入先は限定的だ。これに対し、CuboRexの製品群は農家や建設現場、小規模な工場など、高額なロボットを導入する予算のない現場に行き届く強みがある。

 ユニークな戦略が功を奏した背景には、同社の成り立ちが大きく関わっている。

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