カーボンニュートラルへの挑戦

生産ラインや製品単位のRE100認定で推進される日本の脱炭素化脱炭素

アート&エコロジー 代表取締役の竹内孝明氏による講演「なぜ、製造ラインや製品単位での“RE100”認定が必要なのか」の内容を紹介する。

» 2023年07月24日 08時30分 公開
[長町基MONOist]

 アイティメディアにおける産業向けメディアであるMONOist、EE Times Japan、EDN Japan、スマートジャパンは2023年6月6〜12日までオンラインセミナー「カーボンニュートラルテクノロジーフェア 2023夏」(オンデマンド配信は6月30日まで)を開催した。

 本稿ではその中で、基調講演を務めたアート&エコロジー 代表取締役で一般社団法人 パワード・バイ・アールイー認定委員会 代表理事の竹内孝明氏による「なぜ、製造ラインや製品単位での“RE100”認定が必要なのか」の内容を紹介する。

企業にとって避けられない脱炭素化の動き

アート&エコロジーの竹内孝明氏[クリックで拡大]

 現在、カーボンニュートラルへの取り組みは企業にとって避けて通れない問題となっている。

 事業活動で消費するエネルギーを100%再生可能エネルギーで調達することを目標とする国際的イニシアチブ「RE100」(Renewable Energy 100%の略)に参加し、再生可能エネルギー100%を目標とした宣言を出す企業も増えており、2023年4月23日の時点で参加企業は402社(日本企業78社)に達した。参加企業は製造業、小売業の大手が多く、自動車、電機メーカーなどがサプライヤーに協力要請しつつ、具体的な削減策を検討している。

 有名な例ではAppleが自社で既に再エネ使用100%を達成。2030年までに全ての事業にかかわるサプライチェーンと協力し、全体のカーボンニュートラル達成を目指す。日本でもトヨタ自動車や日立製作所などが積極的な取り組みをみせている。

 こうした社会や市場に影響力が大きい企業が組織全体の脱炭素率や再エネ利用率を可視化し、目標も含めて外部宣言することは非常に効果的だ。再エネ市場の活性化を促し、調達がしやすくなるほか、ESG(環境、社会、ガバナンス)投資の呼び込みや、サステナブルファイナンスの対象になりやすくなる。企業価値、ブランド価値、信頼度の向上も期待できる。

 ただ、全ての企業がこうした動きに参加することは難しい。必要性を理解しつつも組織全体の対応にはコストや時間がかかるためだ。そうした中から、組織全体などの大きな単位ではなく、部品レベルでの脱炭素プレミアムなど、部分的な形での再エネ100%利用が可能にならないか、などの要望もみられてきた。

脱炭素化を促進する新たな取り組み

 そこで、竹内氏は新たな要素が加わればあらゆる企業が進んで脱炭素に取り組めるようになるとして、「広く普及に向けて」「健全な普及に向けて」の2つの方向性を紹介した。

 具体的に「広く普及に向けて」では、「企業単位だけではなく、製品や製造ラインなど、細かな単位ごとに再エネ100%利用を謳えるようにする」(竹内氏)。技術的には十分に可能となっており、例えば、日立製作のサービス「Powered by RE」では、個々の設備、サービスごとの再エネ使用状況を実測し、可視化できる。この他、さまざまな企業からIoT(モノのインターネット)の技術を使って製造ライン、設備ごとの電力の使用状況などを確認できるシステムが提供されている。

 「健全な普及に向けて」では統一されたルールに基づき、客観的な認証を伴った形で社会や市場に正しくアピールできるようにする。「一般的に排出の見える化ではモニタリング、レポーティングが重視されるが、この先は正しいかどうか認証するバーリィフィケーション (Verification)が重要になるとわれわれは考えている」(竹内氏)とする。

民間発の認証団体が細かな部分からの脱炭素化を支援

 そうした動きに対応するために発足したのが民間発の認証団体「パワード・バイ・アールイー認定委員会」だ。2022年12月にアート&エコロジーおよび日立製作所、リコーの3社で運営を開始した。

 業務の内容は、主に再エネの計測、開示手法のルール化、ルールに基づいた認定、証書/ロゴの発行で、2023年3月には最初の案件の認証に至った。

 第1号となったのは、自動車の内装などに使われる旭化成の「Dinamica」という人工皮革の生産設備だ。宮崎県延岡市にある生産工場は、水力発電によって工事建屋、生産設備の電力を100%賄っている。これを計測し、100%再エネを利用していることを認証、認定した。この認定書はグローバルな自動車メーカーへの素材製品納入において効力を発揮している。

 日立製作所では事業所の特定の建屋やフロア、エレベーターの再エネ100%利用の証明や、社用車、公用車のEV(電気自動車)を再エネ100%充電の証明、展示施設の再エネ100%運用の証明など、さまざまなユースケースが存在している。さらにオフィス、施設の他、生産工程や商品、物流、調達、燃料などさまざまなグリーン化の利用シーンが考えられる。

 こうしたグリーン価値や脱炭素化価値を商材に活用し、事業拡大の機会につながることが期待される。竹内氏は「将来的にはパワード・バイ・アールイー認定が、あらゆる脱炭素価値の共通認証基盤となることを目指したい」と話す。

 同委員会では今後、認定設備や商品などを増やすと同時にステークホルダーを集めたコンソーシアム活動を通して適用範囲の拡大、そして国際標準、ルール化などにも取り組む考えだ。

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