日本メーカーの自動車生産については、国内生産数がやや減少する一方で、海外生産数が大きく増加している傾向があるようです。それぞれの関係がどのように変化してきたのか、1つのグラフにまとめてみましょう。
国内生産数(青)は1993年の1100万台程度から、2021年には800万台程度にまで縮小しています。一方で海外生産は1998年の500万台強から右肩上がりで増え続けていて、2007年に逆転しています。
コロナ禍前の2018年には、国内生産数が1000万台弱に対して海外生産数は2000万台弱と、ほぼ2倍の水準に達しているわけですね。輸出数というよりも、海外生産数を増やしているということになります。
経済統計的な見方をすれば、海外生産とは日本に本社を置く日本企業が、海外に現地法人を設立して工場などを建て、多くの現地国の人を労働者として雇用し、生産活動(=付加価値の創出)を行うことになります。
つまり、生産活動に伴う付加価値であるGDP(国内総生産)は、日本ではなく現地国になるわけですね。当然雇用に伴うお給料も現地国の労働者に分配されます。
では日本には何の恩恵もないのかと言われれば、そうではありません。海外事業で得られた利益は配当金という形で、本国の本社に還流することになります。本社にとってこれらの配当金は営業外収益となり、当期純利益を押し上げる効果が期待できます。
国内で産業規模が停滞する中で、海外進出による効果がどの程度あるのか。自動車産業に関わる経済的指標を見てみましょう。
図4は、自動車産業(自動車/同付属品製造業)の売上高や付加価値などをまとめたものです。売上高や付加価値はリーマンショックなどによるアップダウンがありますが、全体としては緩やかに増加しているようです。
ただし、給与総額は長く停滞が続き、2010年辺りから少しずつ増えている状況のようですね。営業利益や当期純利益もリーマンショックやコロナ禍の時期を除けば増加傾向が続いています。
特に営業外損益が大きくプラスになっています。営業利益よりも当期純利益の方が多いという状況からも、海外事業からのリターンがかなり大きいものと推測されますね。
日本の自動車産業は、海外での生産数を大きく増やす一方で、国内では縮小させています。産業全体としては、国内事業に海外での収益が加わり利益は増えています。しかし、労働者の給与水準が長らく横ばい傾向にあるなど、やや停滞傾向にあります。ただし、2010年以降は全体的に少しずつ成長傾向にあると見なせます。
EV(電気自動車)へのシフトが加速していく中で、日本の自動車産業が今後さらにどのように推移していくのか、注目していきましょう。
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小川真由(おがわ まさよし)
株式会社小川製作所 取締役
慶應義塾大学 理工学部卒業(義塾賞受賞)、同大学院 理工学研究科 修士課程(専門はシステム工学、航空宇宙工学)修了後、富士重工業株式会社(現 株式会社SUBARU)航空宇宙カンパニーにて新規航空機の開発業務に従事。精密機械加工メーカーにて修業後、現職。
医療器具や食品加工機械分野での溶接・バフ研磨などの職人技術による部品製作、5軸加工などを駆使した航空機や半導体製造装置など先端分野の精密部品の供給、3D CADを活用した開発支援事業等を展開。日本の経済統計についてブログやTwitterでの情報発信も行っている。
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