ディープテックスタートアップの聖地を目指すつくば、世界的拠点形成に挑戦スタートアップシティーつくばの可能性(1)(3/3 ページ)

» 2023年05月15日 07時00分 公開
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つくば市に産学官金が連携したスタートアップエコシステムを作る

 ここからは、「創出・育成・拠点作り」の三本柱の中から、つくば市にスタートアップエコシステムを形成するための拠点作りについてさらに掘り下げてみたい。スタートアップエコシステムとは、大学や研究機関、民間企業や金融機関、自治体などがネットワークを作り、優れたスタートアップを継続的に生み出す仕組みで、自然が循環していく生態系に似ていることから呼称される。

 事業性や収益性が不透明なスタートアップにとって資金調達は高いハードルとなることが多く、企業や金融機関などの民間支援組織による援助が必要だ。そのために先述のつくばコンソの果たす役割は大きい。「内外から協力する民間支援組織は増え続け、2022年度だけでも10の機関がつくばコンソに参加しました。多くの組織がこの取り組みに賛同しており、連携が広がっています」(大森氏)。

 またオープンなイベントとして開催され、より自由度の高いネットワーキングの場となっているTSUKUBA CONNECTとの相乗効果も生まれている。TSUKUBA CONNECTは、茨城県内だけでなく、国内外の起業家や研究者、投資家や企業、支援機関のネットワークをつくばに取り込むことで、茨城のスタートアップを全国、世界に発信するのことを目的としており、これまで49回の開催で合計約7000人が参加している。毎月第3金曜日に開かれるこのイベントは、つくばが強みとしているディープテック分野から毎回さまざまなテーマをピックアップしさまざま人々が集う交流プログラムになっている。

 堀越氏は「誰でも気軽に参加できる形で開催していますので、普段は出会えないような方同士をつなげる非常に有意義な機会になっています。茨城県としては、ここでのつながりをつくばコンソにも広げてスタートアップを支援する機運をさらに高める意図があり、実際にTSUKUBA CONNECTへの参加を機につくばコンソに入っていただいたり、その逆もあったり、両者は有機的なつながりを見せています」と説明する。

 アクセラレーターやVC(ベンチャーキャピタル)、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)との出会いはスタートアップにとって非常に重要だが、基本的にこれらの企業は東京に集中しているので、つくば市のスタートアップ企業が彼らに接続するチャンスを増やす必要がある。そこで、TSUKUBA CONNECTというイベントギャザリングの形式を取り、スタートアップ側がピッチできる機会を設けているというわけだ。

 TSUKUBA CONNECTは月1回の頻度で開催されており、このイベントによる機運醸成と時を同じくして設立されたのが「つくばベンチャー協会」である。スタートアップ経営者や支援事業者らプレイヤーが主体となって民間リードのエコシステムとして自発的に発足したもので、ベンチャー企業間のノウハウやネットワークの共有、次世代の起業家育成、地元企業へのエンジェル投資などの普及啓蒙といった活動を行っている。

 行政が中心となって設立したつくばコンソだが、そのつながりの輪はTSUKUBA CONNECTを通じて民間レベルにまで広がっている。地域一体となった盤石なネットワークは、スタートアップの一大拠点を目指すうえで、大きな土台となるだろう。

つくば市をディープテックの聖地に

 日本でも大学や研究所発のスタートアップが増えている昨今、これらの機関に眠るビジネスの種をいかに見つけられるかが重要だ。三本柱のベンチャー支援策を掲げ、スタートアップ育成に尽力する茨城県はどんな未来を展望しているのだろうか。

「つくばエクスプレスなら45分で行き来できる立地は、東京の大企業や経営人材、投資家などの方々にも、つくばに目を向けていただきやすいと思います。また、つくばは他に類を見ない研究人材の密集地です。どなたでも最新のつくばのスタートアップのピッチを聞いていただけるTSUKUBA CONNECTのような機会もあって、つくばは最新の研究に触れるチャンスが豊富ですので、きっと県内外の方々にビジネスの可能性を感じていただけると自負しています。今後は『ディープテック分野の有望なスタートアップ企業を探すなら、まずつくばに』と思っていただけるようなブランディングを目指したいですね」(堀越氏)

「つくばから世界に挑戦する企業を数多く生み出していくという目標の元、茨城に居ながら国内外の企業、人材とつながれる環境を整えています。先日もつくばのスタートアップ企業と一緒にニューヨークまで赴いて、現地の投資家の前でピッチを行い、手応えを感じました。今後はつくば市といえばディープテックスタートアップの聖地だという認知を、国内だけでなく世界中に広めていくつもりです」(大森氏)

左から、堀下恭平氏、大森貴弘氏、堀越瑞紀氏 左から、堀下恭平氏、大森貴弘氏、堀越瑞紀氏。つくばをディープテックスタートアップの聖地とすべく活動を展開している[クリックで拡大]


 つくば市は自治体や民間企業、さまざまなステークホルダーと連携しながらディープテックスタートアップの世界的拠点への挑戦を始めている。茨城県は今まで築いたネットワークをさらに強固なものにしながら、有望なベンチャーの発掘/育成に注力する方針だ。既にライフサイエンス、宇宙/ロボット、エネルギー分野など、注目すべきディープテックスタートアップが次々とこの地から生まれている。

 次回からは、具体的なスタートアップ企業を取り上げ、つくば市発のディープテックスタートアップの優位性やその魅力を探っていく。

筆者プロフィール

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堀下 恭平(ほりした きょうへい) Venture Cafe Tokyo TSUKUBA CONNECT manager

あらゆる挑戦を応援する場である「Tsukuba Place Lab」「up Tsukuba」「つくばスタートアップパーク」などのコワーキング/インキュベーション施設を運営するしびっくぱわー 代表取締役やつくばベンチャー協会理事兼事務局長などを務める。


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