実効性ある工場のリスク管理のため、アセスメントはどう進化させるべきか複雑化した工場リスクに対する課題と処方箋(2)(1/2 ページ)

これまで製造現場のコンプライアンス違反といえば、品質にかかわる不正や不祥事がメインでした。しかし近年、ESG経営やSDGsの広まりから、品質以外の分野でも高度なコンプライアンス要求が生じています。本連載ではコンプライアンスの高度化/複雑化を踏まえ、製造現場が順守すべきコンプライアンスの外延を展望します。

» 2023年05月09日 08時00分 公開

 前回の「品質だけでない現場のコンプライアンス違反リスク、複雑な要請にどう対応するか」では、工場をはじめとした製造現場におけるコンプライアンス違反のリスク領域が、品質や環境、労働安全衛生、情報管理など多岐にわたっていることを解説しました。また違反発生時には、自社だけでなく、株主や顧客、取引先、従業員などさまざまなステークホルダーにも悪影響が及びかねないと指摘しました。

 その上で、自社のリスクについては網羅的に棚卸しと評価(リスクアセスメント)を行い、各リスクの未然予防を図りつつ、リスク発現時に備えてダメージコントロール策を導入することが重要だと紹介しました。

 今回はリスクアセスメントとそれを受けた対応策の講じ方を含めて、リスクマネジメントを実効的かつ効率的にどう進めるかというポイントを解説します。

リスクの複雑化に伴いアセスメントも進化が必要に

 前述の通り、工場/製造現場でのリスクは、品質や環境、労働安全衛生、情報管理など多岐にわたります。加えて、取引先や規制当局、NGOなど各ステークホルダーからの要求は高度化し続けており、コンプライアンスリスクへの対応は複雑化する一途をたどっています。

 おのずから、リスクアセスメントの方法も見直す必要があります。意識しやすい新たな法規制の動向だけでなく、コンプライアンス違反やリスク発現につながり得る企業文化、風土までアプローチすることが特に重要です。具体的には、海外法規制などの新規業務対応を属人化させたままにする、売り上げや利益のために実現できないことを約束/ルール化してしまう、といった事象には注意すべきでしょう。

 以下では、筆者のプロジェクト事例の経験を基に、より具体的なリスクアセスメントの進め方をご紹介します。

(1)増加するリスクの網羅的/体系的な把握

 程度の差こそあれ、事業拡大や環境変化に伴って増加するリスクに、適切な対応ができていないのではないかという不安や懸念は、多くの企業が共通して持つものです。まずは、事故や法規制違反に関わる自社や他社事例の収集、分析、適用される法規制の体系的整理などを行い、カバーすべきリスク領域の十分性を検討します。その上で、開発/生産/検査/出荷といったプロセス別の観点と企業風土、ガバナンス、コミュニケーションといった組織基盤の観点で「リスクマップ」を整理しました。

 マッピングすることでリスクと具体的な業務や責任部署とのつなぎ込みが可能になり、組織として対応が必要なリスクの網羅的な把握と、リスク低減に向けた取り組みの体系化を実現しました。

コンプライアンスリスクマップ(品質の場合)※一部抜粋[クリックして拡大] 出所:KPMGコンサルティング

(2)企業文化/風土に潜む問題/課題の把握

 品質不正や不祥事などのコンプライアンス違反を発生させてしまった企業では、原因として「企業文化/風土の問題」を挙げる例が多く見られます。しかし、この文脈での「企業文化/風土の問題」という言葉は極めて多義的に使われていることに注意が必要です。

 同一企業内、あるいは同一部門内であっても、「企業文化/風土の問題」の定義やスコープが一致していることはまれです。問題を建設的に解決するには、丁寧な認識合わせが求められます。まずは、(1)で紹介したリスクマップを基にするなどで、「企業文化/風土の問題」とそれ以外の問題を整理する必要があります。

 また、企業文化/風土の問題は全社的な検証作業を要します。検証方法の1つとして、アンケートの実施が考えられます。経営陣や管理職における品質軽視傾向の評価、または、課題の把握と対応のための施策検討やその実施状況の確認、といった事柄につながる設問設計があり得るでしょう。

アンケートを活用した企業文化/風土の調査イメージ[クリックして拡大] 出所:KPMGコンサルティング

 なお、品質不正や不祥事の原因として、コンプライアンス意識の低さが指摘されることが多くあります。しかし、不正や不祥事を起こした企業の事案発生前のコンプライアンス意識調査を見てみると、他社よりもコンプライアンス意識のスコアが高かったという例は全く珍しくありません。一般的/抽象的なコンプライアンス意識の高低を取り上げても、リスク把握や低減にはつながらないことは、筆者の経験から明らかであると考えられます。取り組みを進めるにあたって留意する必要があるでしょう。

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