組み込みシステムにおけるAI導入の課題の2つ目となる「3つの壁」は、ルネサスが無償で提供する学習済みAIライブラリと、ユースケースに最適化した学習済みAIアプリケーションに加えて、エッジ/エンドポイントAIで最も充実しているとするエコシステムパートナーによって打破していきたい考えだ。
現時点で12の学習済みAIライブラリがあるが、これらはMITライセンスのオープンソースソフトウェアとしてGitHubで公開されているので、個別の契約なしでそのまま量産適用できる。さらに、各学習済みAIライブラリにユースケースを最適化した学習済みAIアプリケーションは現在役40種類を展開している。「顧客の9割くらいからAIモデルの使い方が分からないという相談がある。この学習済みAIアプリケーションは、AIエキスパートではない方に利用してもらえるように仕立てており、顧客はユースケースを選ぶだけでAIアプリケーションを試せる。これによってAI開発工数を大幅に削減することが可能だ」(野村氏)。なお、学習済みAIアプリケーションについては2023年内に100種類以上に拡充させる方針である。
エッジ/エンドポイントAIの実用化において競合他社との違いを強調するのが、充実したエコシステムパートナーの存在である。野村氏は「こと組み込みシステム向けのAIという観点で見れば、NVIDIAよりも充実していると考えている。量産モジュールパートナーの存在も心強い」と述べる。
今回のRenesas AI Tech Dayでは、現行のDRP-AI搭載製品であるRZ/V2MやRZV2Lを活用したエコシステムパートナーのAIソリューションが多数展示されていた。例えば、NSWは、RZV2Lを搭載するAVNET製の150米ドルと安価な組み込みボード「RZBoard」とWebカメラの組み合わせによる食品製造時の不良検知AIを、スタートアップのNEXT-SYSTEMは、RZV2LとWebカメラ、骨格検知AIを組み合わせたハンドジェスチャーリモコンのデモを披露した。

NSW(左)とNEXT-SYSTEM(右)の展示デモ。NSWが使用した「RZBoard」はAVNETの開発した製品で、海外で先行展開されているが間もなく国内でも販売が始まるという[クリックで拡大] 出所:ルネサス エレクトロニクス組み込みシステムにおけるAI導入の課題の3つ目であるとなる「個別のAI実装」に対しては、2022年7月に買収を完了したReality AIのソリューションを活用していく。
ここまで紹介してきたDRP-AIは、画像処理など主にハイエンドからミッドレンジのAI処理性能が求められる用途に向けた技術である。しかし、信号処理など非画像系のAIは、マイコンをベースにより消費電力などを抑えた形でのAI活用が検討されていることも多い。
汎用マイコンの大手ベンダーであるルネサスにとって、マイコンでもスケーラブルにAIを活用するソリューションが必要である。そこで買収したのが、非画像領域の高度なセンシングを実現する高効率なエッジ/エンドポイントAI向けのソリューションを手掛けるReality AIだ。Reality AIのツールを用いることで、AIモデルのビルドからハードウェア最適化、モデルの可視化といったAIモデルの開発工程を大幅に削減できる。また、モーター制御やHVAC(暖房、換気、空調)、音響ベースADAS(先進運転支援システム)センシングなどユースケースごとのチューニングが可能なアドオンツールも用意していく方針だ。
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ルネサスの組み込みAIの性能は10倍×10倍×10倍で1000倍へ「推論に加え学習も」Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
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