「始めます!」で終えぬために、カスタマーサクセス2.0実現のポイント製造業のための「カスタマーサクセス」入門(4)(3/3 ページ)

» 2023年04月13日 08時00分 公開
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「成果指標の考え方」も大事

 カスタマーサクセスの取り組みを現場で進める上で、課題になるのが成果指標の考え方です。カスタマーサクセスをなぜ始めるのか、そして、なにをもって目標を達成したと判断すべきか悩むケースも少なくありません。こうした疑問を解決することが、カスタマーサクセスの効果を社内で認識しつつ、ゴールとのギャップを解決するサイクルへとつながり、顧客と企業双方にも良い効果をもたらしていくのです。

 それを示しているものが下記図(図9)です。こちらは、カスタマーサクセスの効果を感じている人ほど、対象顧客のセグメンテーション、その顧客層に対するKPIやKGIを設定して、運用上の課題をすでに解決していることを示しています。

図9:カスタマーサクセス運用上の課題、KPI設定の仕方[クリックして拡大] 出所:セールスフォース・ジャパン

 効果を実感している人がどのようなKPIを設定しているか紹介します(図10)。継続率や解約率といった、いわゆる守りのカスタマーサクセス(カスタマーサクセス1.0)の指標が上位にある一方で、攻めのカスタマーサクセス(カスタマーサクセス2.0)の指標である「アップセル率」が3位に位置しています。カスタマーサクセス2.0に向かう時代の流れが確実に来ている様子が伺えます。

図10:カスタマーサクセス運用上の課題、成果指標[クリックして拡大] 出所:セールスフォース・ジャパン

 読者の皆さんがカスタマーサクセスに取り組む際には、取り組む理由やゴール、KPI/KGI、それを運用する組織体制設計が、無理なく一貫してつながっているか確認することをぜひお勧めします。

企業文化の醸成もカスタマーサクセスに必要

 ここまで述べてきたマネジメントの話は、カスタマーサクセスの考えや活動を社内に浸透させる上でのあくまで入り口にしかすぎません。筆者はカスタマーサクセス活動を事業会社で進めていく中で、「この変化は本当にカスタマーサクセスの効果と言いきれるのか?」「顧客が継続的に商品/サービスを購入するのは自分たちが品質向上に努めているからだ、カスタマーサクセスの活動に付き合う時間はない」といった現場からの声に遭遇しました。

 こうした声に向き合う上では、KPI達成には社内各部門が連携して改善活動を行う必要があると理解しているか、顧客体験向上を自身の行動規範として持ち合わせているか、などを意識する必要があります。筆者は、こうした価値観を醸成し続けられる企業文化が、カスタマーサクセスによる持続的効果創出の成否を決めると確信しています。

 ここで皆さんもよくご存じの、コカ・コーラの事例をご紹介します。約200カ国で500種類の製品を販売し、数十億ドルの売り上げを誇る同社も、近年はソーダの売上減や運営コストの上昇などの要因により収益低下の危機にさらされています。これを変えるべく、2018年に新たなDX(デジタルトランスフォーメーション)を開始しています。顧客にとって有意義な体験をデジタルで生み出す、という取り組みです。

 例えば、自動販売機のAI(人工知能)アシスタントが個人の好みに合わせてパーソナライズされたソーダを作る実験があります。このような、顧客/デジタルファーストなビジネス転換を図るために「Cultural Transformation」に注目しています。同社のASEAN地域のマーケティングやデジタルITのリードを担うHarish Kundargi氏は、「DXの50%は戦略、残り50%は企業文化」と説明しています。コカ・コーラの取り組みはまだ進行中ですが、企業全体が顧客の利用価値を考えて学習を重ねる組織になることを重視するようになっています。

 最後に、顧客中心主義の企業が顧客に選ばれ続けることを示すデータを紹介したいと思います。図11の通り、顧客中心主義の企業はそうでない企業より利益が60%増えています。また、86%の顧客が優れたカスタマーエクスペリエンスを提供する企業により高いコストを支払うと回答し、71%の顧客がパーソナライズされた対応を企業に期待しています。

図11:顧客中心主義の企業文化[クリックして拡大] 出所:セールスフォース・ジャパン

 以上、第4回の内容をまとめると、以下のようになります。

  • カスタマーサクセスをスタートする上では、各社での役割定義が必須
  • カスタマーサクセスの運用時に最初につまずくのは組織体制の考え方
  • 製造業では、提供する商品/サービスが持つ特性と顧客が期待する利用体験価値を考えて、その最大化に貢献し得る組織体制が必要になる
  • 自社のビジネス成熟度と照らし合わせ、5つの基本的なカスタマーサクセスモデルを参考に、運用体制を常に見直し進化させていく
  • 成果指標の考え方でもつまづきやすい。カスタマーサクセスの効果を実感する人ほど、早期に解決している
  • 成果指標の例としては継続率や解約率、アップセル率がある。特にアップセル率を重視する企業は多く、カスタマーサクセス2.0の到来を予感させる
  • カスタマーサクセスによる持続的な効果を享受するには、企業文化の成熟が欠かせない
  • 顧客中心主義の企業文化を持つ企業は、そうでない企業より60%利益が増えている

 製造業に関わる皆さまに、何か一つでも有益な情報をお届けしたいという思いに突き動かされ、今回は「製造業におけるカスタマーサクセス」に関する筆者自身の経験や先進的な海外事例を様々な角度から解説してまいりました。現在は、良い製品やサービスをただ単に作っても売れる時代ではありません。業界全体で自社中心目線から顧客中心目線へと驚くべきスピードで変革がなされています。その速さは筆者自身も日々実感するところです。

 とはいえ、変革というものは一朝一夕には成し得ない長い道のりであることも理解しています。その道のりで、何かつまづいた時には、本連載記事を思いだし振り返ってみていただけたら、こんなに嬉しいことはありません。

 最後になりますが、ここまで読者の皆様には、本連載にお付き合いいただき本当にありがとうございました。また、本企画に賛同いただき編集に携わって下さったMONOistの関係者の皆様にもこの場を借りて御礼を申し上げます。

 カスタマーサクセスに成功したという声を読者の皆さまからお聞きできる日を楽しみにしつつ、筆者自身もお客様の成功体験づくりに貢献してまいります。

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筆者プロフィール

株式会社セールスフォース・ジャパン シニアプリンシパルカスタマーサクセスマネージャー

五味 信子(ごみ のぶこ)

経歴

日系大手半導体製造販売会社、部品製造販売流通会社などを経て、株式会社セールスフォース・ジャパン入社。

事業会社におけるさまざまなDX関連プロジェクトリード経験を生かし、国内製造業のデジタル推進プロジェクト支援に従事。

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