顧客の成功体験づくり、「カスタマーサクセス」の重要性に国内外の製造業から注目が集まっています。本連載ではこの概念を分かりやすく解説します。最終回では実際にカスタマーサクセスに取り組む場合のつまずきポイントや対応策に触れつつ、カスタマーサクセス2.0の実践の仕方を解説します
本連載も最終回になりました。第1回は、国内外の製造業でカスタマーサクセス(=顧客の成功体験)を重視し始めている理由、第2回ではカスタマーサクセスが企業成長にもたらす2つの効果をお伝えしました。さらに第3回では、カスタマーサクセス2.0時代への突入を踏まえて、製造業が取り組む先進的な顧客視点でのサービスづくりを紹介しました。
最終回ではいよいよ、実際にカスタマーサクセスに取り組む場合のつまずきポイントや対応策に触れつつ、カスタマーサクセス2.0の実践方法を解説します。
顧客の成功体験づくりの重要性を理解し、カスタマーサクセスに取り組もうとした場合、皆さまは何からスタートしますか?
筆者は過去に製造業においてカスタマーサクセスを推進する部門をリードしていました。その当時の経験を踏ま得てお伝えしたいのが、カスタマーサクセスに取り組む理由を、いま一度自社内で熟議していただきたい、ということです。「カスタマーサクセスは重要です。私たちも新しいやり方を取り入れましょう!」と言うだけでは単なる掛け声に終わり、組織や人は実際に動かないものなのです。
第2回で考察したように、カスタマーサクセスを運用して実効果を得たい場合、セールス、マーケティング、製品企画、開発など他部門との連携は不可欠です。社内の全組織が納得するような、企業のビジョンやバリューとの関わり、カスタマーサクセスがもたらす企業戦略への貢献領域などを明確にすることがポイントです。
米国カスタマーサクセスソフトウェアベンダー「Gainsight(ゲインサイト)」が発行した「The Customer Success Index 2022」によると、調査に参加したB2B企業の半数がカスタマーサクセスの役割は「販売機会の発掘や拡大」だと考えています。CS(=カスタマーサクセスを担うチームや組織の一般的名称)の役割は、顧客との商談を成約させることではありません。購買後も顧客接点を通じて得られた気付きを社内に環流し、商品やサービスの改善、新たなサービス提案といった販売機会の拡大につなげると期待されています。このような事実も踏まえ、導入するカスタマーサクセスの役割を定義すべきでしょう。
2021年度に実施された、あるカスタマーサクセス実態調査(対象者:全国の20歳から65歳の有職者2万1526人)を見てみましょう。カスタマーサクセスに取り組む企業の運用面での課題としては、「人材・組織体制が不十分」「経営層/上層部の理解が得られない」といった、組織的な体制づくりや運用面のものが上位に挙げられています(図1)。
ここで、製造業に適したカスタマーサクセスの組織体制とはどのようなものか考えてみましょう。例えば、SaaSを提供する企業のCSは解約率の低下を主に担います。しかし、筆者は製造業がそれをそのまままねすべきとは思いません。製造業は、誰もが同じ使い方で同等な利用体験を得られる汎用品から、顧客ごとにカスタマイズされた複雑な商品サービスまで、千差万別な商品構成となっています。自社が扱う商品サービスの特徴を踏まえた上で、顧客の利用体験価値を考え、その最大化に適した組織体制の設計を検討する必要があります。
ここで顧客要求を理解する上で、ガートナーによる「製造業の戦略シナリオに影響をもたらす外部要因(顧客要求)」(図2)が参考になります。この図が示すように、サイズや質(規定)が均一で、ローコストに大量生産できる製品の場合、顧客のニーズは一貫して単純な傾向にあります。ナットやボルトのような汎用消耗品でも、医薬品のように規制された商品でも、顧客は他の顧客と差別化された利用体験を望むわけではないのです。
反対に、需要が流動的かつカスタマイズ化された製品は、高度で非常に専門的な体験価値が求められます。イメージしやすいのは、個々の患者用に作られた医療用製品や貴金属のハンドメイドジュエリーなどでしょうか。これらの製品特性を踏まえた上で、顧客に寄り添った体験価値を提供し得る組織を編成しなければなりません。
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