パナソニック くらしアプライアンス社は、家庭用および業務用の冷蔵庫に導入可能な技術として「常圧凍結乾燥技術」の開発進めている。
パナソニック くらしアプライアンス社は2023年3月30日、東京都内で会見を開き、共創パートナーと新たな食の体験価値を創造する「未来の食プロジェクト」をスタートすると発表した。未来の食プロジェクトでは、食の新技術やパナソニックが運営するサービスを活用し、2030年までに100億円規模の新事業を創出することを目標に掲げている。
第1弾として、京都大学大学院 工学研究科化学工学専攻 准教授の中川究也氏との共同研究で開発を進めている「常圧凍結乾燥技術」を用いて、料理を科学するグループであるKYOTO SNT LAB.(キョウトエスエヌティーラボ)とともに乾燥食品のプロトタイプを完成させた。
常圧凍結乾燥技術は、冷凍した食品を乾燥した冷気にさらすと氷が昇華して乾燥が進む現象を利用し、常圧の大気圧下で温度を独自のアルゴリズムで制御することで、5〜7日の期間をかけて対象食品の水分活性を0.6以下まで乾燥させられる。
同技術を実現する装置のプロトタイプは、冷却装置で空気を露点に達するまで冷やし、湿度が100%となった空気をヒーターで加熱して、非常に低湿度な空気を作り、この空気により氷点下の常圧環境で対象食品を乾燥させる。このシステムは、既存の冷凍庫にも類似する仕組みであり、それを発展させたものだという。
同技術で出来上がった乾燥食品は香りがよく、1カ月の常温保存が可能な他、水分活性を調整することで食感が異なる乾燥食品を作れることも分かっている。肉、魚、果物では力を発揮するが、時間をかけても内部の乾燥が困難という理由で葉物野菜とかんきつ類の果物では有効ではないという。
同社 冷蔵庫・食洗器BU 冷蔵庫技術部 主任技師の松岡真衣氏は、「常圧凍結乾燥技術はフリーズドライ(真空凍結乾燥)とは効果が異なる」と強調する。フリーズドライはサクサクとした食感を食品に付与するが、常圧凍結乾燥技術ではしっとりとした食感を備えられるだけでなく、栄養成分の変化がフリーズドライより少なく香りを良好に保てる。
こういった効果は、フリーズドライより常圧凍結乾燥技術が、対象食品の細孔サイズやマトリクスの厚みを大きくできることが要因になっている。大型の真空装置が不要で、小規模な設備で導入可能な点も大きな違いだ。
また、熱風乾燥と比べ、フレッシュな香りを保ちつつ、クロロフィル(緑色素)を高められ色彩を鮮やかにし、ビタミンCの量も増やせる。
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