カーボンニュートラルへの挑戦

スズキが進めるインドの脱炭素、EVだけでなく「3億頭の牛」とともに電動化(1/2 ページ)

スズキは2030年度に向けた成長戦略を発表した。各国政府が掲げるカーボンニュートラルの達成目標時期に基づいて、製品、製造、バイオガスなどの領域で取り組みを進める。

» 2023年01月27日 06時00分 公開
[齊藤由希MONOist]

 スズキは2023年1月26日、2030年度に向けた成長戦略を発表した。各国政府が掲げるカーボンニュートラルの達成目標時期に基づいて、製品、製造、バイオガスなどの領域で取り組みを進める。主要な事業地域である日本、インド、欧州を核に、カーボンニュートラル社会の実現や、インド、ASEAN、アフリカなど新興国の経済成長に貢献していく。

 この成長戦略に基づいて、2030年度に売上高7兆円の達成を目指す(2021年度比で倍増。営業利益率の目標については非公開)。また、2030年度までに合計で研究開発に2兆円、EV(電気自動車)の生産拠点や再生可能エネルギーなど設備に2.5兆円を投資する。このうち、電動化に関する投資が電池関連5000億円を含む2兆円となる。研究開発費は、電動化以外ではバイオガスなどのカーボンニュートラル領域や自動運転などに投資する。

売上高7兆円投資計画 2030年度に売上高7兆円を目指す(左)。2030年度までに合計4.5兆円を投資する(右)[クリックで拡大] 出所:スズキ

 研究開発は、日本のスズキ本社と横浜研究所、スズキR&Dセンターインディア、マルチスズキが連携し、将来技術や先行技術、量産技術の領域を分担しながら効率的に進めていく。地域の連携を担う次世代自動車センター浜松や、次世代燃料を研究する次世代グリーンCO2燃料技術研究組合など、外部との協力や産学官連携もリソースとして活用する。

 トヨタ自動車とは、自動運転やバッテリーなどの先進技術の開発や新興国市場でのビジネス拡大、インドでのカーボンニュートラルの取り組みなどで引き続き協力関係を深化させていく。スズキ 代表取締役社長の鈴木俊宏氏は「トヨタ自動車に対して受け身でやっているのでは、協業の中でスズキの存在価値はない。学ばせてもらったことを踏まえて、スズキ流に考えるとどうなるかを示していきたい」と述べた。

 また、インドに根付いた研究開発やイノベーションを推進するため、スズキイノベーションセンターが探索活動を行っている。インドにある大学や研究機関などとの協業も進める。

日本は2023年度に軽商用EV

 地域別の具体的なEV投入計画も発表した。日本では、2023年度に軽商用EVをまず投入し、2030年度までに小型SUVや軽乗用タイプなど6車種を展開する。2030年度のEV比率は20%と見込む。EVの他、新型HEV(ハイブリッド車)も選択肢として提供していく。欧州では2024年度からEVを投入する。SUVやBセグメントなど、2030年度までに5車種を展開していく。2030年度のEV比率は80%となる見通しだ。

 インドも2024年度からEVを投入する予定で、既にそのコンセプトカーが発表されている。2030年度までに6車種を展開するが、EV比率は15%にとどまる。「インドは国土が広く、電気のインフラが十分ではない地域もある。EVの充電以前に家庭で使う電気を確保しなければならないところもある」(鈴木氏)という状況のため、HEVの他、CNGやバイオガス、エタノール配合燃料などさまざまなパワートレインを継続的に投入する。

日本欧州インド 日本(左)、欧州(中央)、インド(右)でのEV投入計画[クリックで拡大] 出所:スズキ

 軽自動車のEV化について、鈴木氏は「必要なものであり、大事なことだと考えている。価格は200万円が軽自動車にとって1つのリミット。売るということでいえば100万円台を達成できないかと考えるが、電池の価格などを考えるとハードルは高い。電池の価格は思った以上に下がらない。資源の取り合いも発生し、値段が上がっていく可能性もある。また、クルマとは売って買ってもらうものなのか、それともシェアリングで使い分けてもらうものなのか、社会の在り方なども見ながら対応していきたい」とコメント。

 EVが活用される条件については、「自宅充電の環境を整え、軽EVを市場に出すことに加えて、充電インフラの充実や、使い勝手を割り切ってもらうことの組み合わせで成立していくのではないか。また、カーボンニュートラルにおいて必要なところでEVを使うように役割分担が決まっていくだろう。パーソナルモビリティの領域であれば、EVで走らせるのが便利だと考えている。お客さまがクルマを選ぶのではなく、EVがお客さまを選ぶという発想も必要かもしれない」(鈴木氏)と述べた。

 EVの商品としての魅力に関して鈴木氏は次のように語った。「先行しているメーカーに学ぶ必要がある。さまざまな評価を見ていると、『EVは加速がいい』『十分使える』というコメントがあるが、長く使ったときにどんな問題が出てくるか。EVに乗っている人の半数が『次はEVを買わない』と考えているという調査結果もある。生活の中で選ばれるクルマかというと、まだまだそうはなっていない。どう使っているのかを見極めながら、適材適所なEVを投入していく。今の軽自動車に代わるEVを狙っていても成功しない」(鈴木氏)

「先行しているEVのユーザーとスズキのユーザーは違うのではないか。そこを考えながら、スズキらしいEVを出すことに全力を注いでいきたい。まだ市場に出していないので、まずは発売して、EVを育てていく。第2弾、第3弾で「やったね」といってもらえるように、一緒に作りあげていく必要がある」(鈴木氏)

 インドのEV市場については、「一方的にEVでいくことが勝利になるとは思えない。全方位で対応していくことが重要だ。インド政府からは2030年にEV比率30%という目標が出ているが、全方位でカーボンニュートラルを目指すとも聞いている。広い国なので電力網が十分ではなく、CNGが便利な地域もあれば、発電が得意な地域もある。内燃機関を使ったクルマの比率は、一定の高さで行くのではないかと見込んでいる。さまざまな選択肢を用意して、価格帯や地域に合わせて車両を投入していきたい」(鈴木氏)とコメントした。

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