人に合わせる「人間工学電卓」、カシオはレガシーな製品をどう進化させたのか小寺信良が見た革新製品の舞台裏(24)(3/4 ページ)

» 2023年01月12日 08時00分 公開
[小寺信良MONOist]

「3度」の謎

―― いわゆる横方向に傾斜を付けるってことでは、単にこう、電卓の足の部分を工夫して角度が変えられるようにしたらいいんじゃないか、という話になりそうですが、製品としてはそうはならなかった。これはなぜでしょう。

木村 電卓の下に3方向の力センサーを仕込んで、たたいている状態を分析してみると、いくら斜めに傾けた電卓を用意してたたいてもらっても、不思議と指の方向は垂直のまんまだっていうのが、力センサーの情報から分かりました。

電卓の下に三方向の力センサーを仕込んで分析[クリックして拡大] 出所:カシオ計算機

 私は面が斜めになったら、打鍵方向も斜めになるはずと思っていたんですけど、データでは違った。であれば、指の押す方向とキーのへこむ方向は同じでないと、力のロスが発生することになってしまう。従って、指は自然な傾斜になりつつも、打鍵は効率を損ねることがないように垂直に沈むという構造になってます。

―― その傾斜角が、1度でもなく5度でもなく、3度だった?

木村 0度から9度まで、1度ずつ角度を変えながら、手の打ってる形とかいろんな荷重の変化とかもデータとして取ったんですけど、実は角度が上がれば上がるほど、指の筋活動量、筋肉の負担っていうのは減っていくんですよね。一番角度が大きい9度が、一番筋活動量が低いと分かったんです。

傾斜角の調整に使用した「足」[クリックして拡大] 出所:カシオ計算機

 一方で「主観」もすごい大事だなと思っていて。9度の電卓を実際触ってもらったときに、「すごいこれ好きです」って言う人もいたにはいたんですけど、この9度のいかつい角度にちょっと不安感を覚えるというか、「打ち間違えそう」っていう不安感を覚える方も多くいました。実際に打ち間違えてはなかったとしても、そういう不安感がなく、かつ打ちやすく、ニッチなところよりはいろんな人に使ってもらえる角度ということで、「3度」を選択しました。

さまざまなデザインを模索[クリックして拡大] 出所:カシオ計算機

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