三菱電機は2022年11月17日、SiCパワー半導体素子を採用し高い電力変換効率を実現した「DCマルチ電圧システム」を開発したと発表した。直流と交流の変換ロスを削減する直流配電システムの実現を目指し、同年11月18日から三菱電機のZEB関連技術実証棟「SUSTIE」での実証を行っている。
三菱電機は2022年11月17日、SiCパワー半導体素子を採用し高い電力変換効率を実現した「DCマルチ電圧システム」を開発したと発表した。直流(DC)と交流(AC)の変換ロスを削減する直流配電システムの実現を目指し、同年11月18日から三菱電機のZEB(net Zero Energy Building)関連技術実証棟「SUSTIE」での実証を行っている。
地球温暖化対策に向け、再生可能エネルギーの導入や省エネルギー化への取り組みが広がる中、大きな注目を集めているのが、直流配電システムだ。現在の電力システムでは、直流電源と交流電源が混在しており、1つの施設内でも直流と交流の電力変換が必要になり、そこでロスが発生していた。特に再生可能エネルギーや蓄電池は直流で発電や蓄電されるため、その変換ロスが課題となっている。これらを解決する次世代の電力供給システムと考えられているためだ。
しかし、直流配電システムでは、接続する複数の設備機器に対して最適な電圧を出力するために変換器を多数配置する必要があり、電力変換器のさらなる低損失化とシステム全体の小型化が課題となっていた。
そこで、三菱電機では、電力変換器にSiCパワー半導体素子を適用し、高い電力変換効率を維持したまま主回路部品を小型化して、1つの盤に複数の変換器を搭載した「DCマルチ変換器盤」と、複数の設備機器に対して空調や照明などそれぞれの接続機器(負荷)に応じた最適な電圧を供給できる新たな「マルチ電圧給電回路」を開発した。
開発のポイントは3つある。1つ目はパワー半導体素子にSiCを採用したことだ。これにより、AC/DC電力変換器の変換効率98.5%、DC/DC電力変換器の変換効率98.6%を実現した他、直流電圧を従来のDC380VからDC700Vに高電圧化することに成功。三菱電機の中低圧直流配電システムの従来機に対して電力損失を45%削減できたとしている。さらに、電力損失低減により温度上昇を抑制できるため、冷却装置の小型化を可能としたことに加え、スイッチングの高周波化でリアクトルの小型化を実現したことから変換器盤を体積で20%、質量で36%低減した。
2つ目は、マルチ電圧給電回路を開発し、接続する設備機器ごとに異なる複数の最適電圧を供給可能としたことだ。先述したように電力変換器の小型化に成功したことから、1つの盤内に複数の電力変換器を搭載し、出力電圧を制御することができるようになった。これにより、1つの盤で接続する設備機器への供給電力を最適化でき受配電損失を20%削減した。
3つ目は、無瞬断運転継続技術を開発したことだ。直流配電網での実際の活用を想定し、複数台のDC/DC電力変換器を用いた直流電力の高速制御を行う仕組みを開発。その実証として、三菱電機のZEB関連技術実証棟「SUSTIE」で、受配電効率向上の効果と直流配電網の安定性の確認を行う。
同社では、今後2023年3月まで実証試験を行う計画だ。既に「基本的な技術は完成している」(三菱電機)とし、実証を通じて製品としての妥当性を検討し、2025年以降の製品化を計画しているという。
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