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» 2022年09月29日 07時00分 公開

オーディオ信号でステッピングモーターを回す【前編】注目デバイスで組み込み開発をアップグレード(5)(1/3 ページ)

注目デバイスの活用で組み込み開発の幅を広げることが狙いの本連載。第5回からは前後編で、オーディオ信号でステッピングモーターを回す実験に挑戦する。今回の前編では、ステッピングモーターをオーディオ信号で成業するメリットや、実験回路の詳細について説明する。

[今岡通博MONOist]

はじめに

 今回からは「DTMF」(後述)という音響帯域の信号(オーディオ信号)を用いてステッピングモーターを回してみる実験に挑戦してみたいと思います。前後編の2回に分けて、今回の前編では実験に登場する各コンポーネントの説明を行い、後編では実際にステッピングモーターを回してみます。

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 ステッピングモーターは制御端子に決められた順番でパルス電流を与えると一定の角度で回転するモーターです。EV(電気自動車)の駆動のような動力を得る用途ではなく、精密制御に用いられることが多いモーターです。メイカー(Maker)系の読者にとっては、CNCルーター(数値制御のフライス)や3Dプリンタなどのステージ/ヘッドの制御に用いられているので身近な駆動デバイスではないでしょうか。このモーターが精密機械の制御に多く用いられる理由は、フィードバック制御がなくても正確に回転角度を制御できる点にあります。制御が不要なことにより、機構的にも電気的にもシンプルなシステムを構成できるというメリットもあります。ステッピングモーターについては筆者の以前の連載記事をご覧ください。

 さて今回は、そのステッピングモーターをオーディオ信号で制御するという試みですが、「オーディオ信号でステッピングモーター」と聞くと読者の皆さんには少し奇異に聞こえるかもしれません。本来、ステッピングモーターの制御にはArduinoなどのマイコンを用いるのが一般的です。いわゆるOS(オペレーティングシステム)を介在せずプログラムが素で動作するマイコンが用いられることが多いのです。制御する信号が少しでも遅延したりグリッチ(不具合)が挟まったりすると、ステッピングモーターがスムーズに回転しません。それだけでなく、ステップがずれるとその後の精密加工の寸法が狂い、不良品となってしまいます。そういった事態を防ぐためには、ステップのずれの検出や修正のための回路/プログラムなどが別途必要になります。

 そこで、オーディオ信号を用いるメリットが出てきます。まず、マイコンに組み込むプログラムの替わりにオーディオ信号を記録した音声ファイルをPCで再生しオーディオインタフェースから出力すれば、PCからステッピングモーターを制御できます。PCとモーターはオーディオインタフェースで接続するだけで済みます。音声ファイルを再生可能でオーディオインタフェースを持つデバイスであれば、PCだけでなくスマートフォンやタブレット端末、オーディオプレーヤーなどからでもステッピングモーターを制御できます。制御に用いるのはオーディオ信号なので、既存の音声用途のラジオ送受信機を使ってステッピングモーターを遠隔制御することも可能です。

 オーディオ信号を伝える有線の信号線は最低2本で済みます。アナログの固定電話でも用いられてきた、宅内の電話機から最寄りの基地局の交換機まで電話番号を伝送するための信号線であり、かなりの長距離までの信号伝送に対応します。また、音声フォイルの再生については、CPUを介さずに音声再生用のコーデックICを使えば遅延やグリッチが挟まる余地はほぼなくなります。そんなわけで、オーディオインタフェースはステッピングモーターを制御するのに適したインタフェースとして利用可能なのではないでしょうか。

DTMF

 DTMFは“Dual-Tone Multi-Frequency”の頭文字を取った言葉です。2つの音響帯域の周波数の組み合わせで16種類の信号を送信する方式です。アナログの黒電話などに用いられてきた回転式のダイヤルパルス方式に代わり交換機に電話番号を伝送する方式として1950年代に提案された規格であり、当時としては新進気鋭の方式でした。ITU-T勧告Q.24、日本では総務省令 端末設備等規則第12条第2号で規定されています。

 表1は、DTMFの周波数の組み合わせとそれらに対応するシンボルを示しています。縦に並ぶ4つの周波数が低帯域周波数群、横に並ぶ4つの周波数が高帯域周波数群です。低帯域群から周波数を1つ、高帯域群から1つ周波数を選びます。その2つの周波数の組み合わせで送出するシンボルを決定します。例えば低帯域群から770Hz、そして高帯域群から1477Hzの組み合わせだと送出するシンボルは「6」となります。

1209Hz 1335Hz 1477Hz 1633Hz
697Hz 1 2 3 A
770Hz 4 5 6 B
852Hz 7 8 9 C
941Hz * 0 # D
表1 DTMFの周波数の組み合わせと対応するシンボル
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