この問題が判明した以上、もう成形メーカーを変更するしかない。1stトライの後は、金型の微調整や修正、トライ部品を使って試作を行い、その結果による設計修正、生産直前の成形機の条件設定、承認品の作製とその承認作業があり、いくら頑張っても3週間は必要だ。成形メーカーの変更、つまり金型移管などをしている時間はないのだ。しかし、成形メーカーBで生産が不可能であれば、何としてでもやるしかない。
筆者は、2000tまでの射出成形機を所有するなじみの成形メーカーに金型移管をお願いした。すったもんだの末、何とか1週間で金型の移管を終えることができたが、ほぼ付きっ切りの毎日であった。
金型の移管では、その金型の射出成形機への取り付けに際し、お互いの成形メーカーの技術的な考え方に違いがあるため、この1週間の現場は中国人の怒鳴り声とケンカの絶えないものとなり、移管先の成形メーカーの営業担当の女性は、ついには泣き出してしまう始末であった……。
今回の2つのエピソードで共通する問題の原因は、成形メーカーを生産前に訪問しなかったことだ。前者は、ODMメーカーに全ての業務を一任し、成形メーカーの名称さえも知らないで生産をしていたのだ。よって、この問題の解決には前述したように、成形メーカーの名称を知ることから始まった。一般的に、何か問題が発生すれば部品メーカーは情報を隠そうとする。よって、その解明にはとても時間がかかるのだ。
リアカバーの成形メーカーと着色した商社はグルであったため、この問題を事前に回避できたかは分からないが、生産開始前に成形メーカーを訪問し、ある程度の人間関係を構築していれば、抑止力が働いたかもしれない。また、半年に一度程度の定期的な監査があればなおよかった。会社名さえも知らないのは、今となっては考えられないことだ。
後者の問題では、筆者がこのプロジェクトの担当になった時点で成形メーカーAを訪問しておくべきだった。購買担当の「800tは持っている」の言葉を聞いた後に、その確認のために訪問しておくべきだったのだ。これは駐在者の役目でもあるのだが、この成形メーカーAは過去に訪問したことがあったので、安心していたのだった。
これら2つのエピソードから分かる通り、「自分の担当する部品がどこで、どのように作られるか」を生産の前と後で確認することはとても重要である。そして、その確認は、現場で行うのが最もよい。肝に銘じるべきである。 (次回へ続く)
オリジナル製品化/中国モノづくり支援
ロジカル・エンジニアリング 代表
小田淳(おだ あつし)
上智大学 機械工学科卒業。ソニーに29年間在籍し、モニターやプロジェクターの製品化設計を行う。最後は中国に駐在し、現地で部品と製品の製造を行う。「材料費が高くて売っても損する」「ユーザーに届いた製品が壊れていた」などのように、試作品はできたが販売できる製品ができないベンチャー企業が多くある。また、製品化はできたが、社内に設計・品質システムがなく、効率よく製品化できない企業もある。一方で、モノづくりの一流企業であっても、中国などの海外ではトラブルや不良品を多く発生させている現状がある。その原因は、中国人の国民性による仕事の仕方を理解せず、「あうんの呼吸」に頼った日本独特の仕事の仕方をそのまま中国に持ち込んでしまっているからである。日本の貿易輸出の85%を担う日本の製造業が世界のトップランナーであり続けるためには、これらのような現状を改善し世界で一目置かれる優れたエンジニアが必要であると考え、研修やコンサルティング、講演、執筆活動を行う。
◆ロジカル・エンジニアリング Webサイト ⇒ https://roji.global/
◆著書
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