部品メーカーを訪問する重要性を“本当にあった”トラブル事例から学ぶリモート時代の中国モノづくり、品質不良をどう回避する?(6)(2/4 ページ)

» 2022年09月08日 07時00分 公開
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初めて部品メーカーを訪問する

 台湾のODMメーカーを訪問しても、得られる回答は同じであった。

 ODMメーカーは、中国にある成形メーカーにリアカバーの生産を依頼しており、「最近何も変更はない」とのことであった。それでは、中国にある成形メーカーに行き、何が起こったのかを直接確認するしかない。すぐさま、ODMメーカーの営業窓口担当や品質保証担当などの数人を引き連れて、中国の成形メーカーを訪問することになった。

 成形メーカーを訪問したが、ここでも「何も変更はしていない」という。リアカバーの在庫や月の生産個数、出荷個数などのデータを調べ、数時間が経過したところである情報が入ってきた。それは、ペレット(樹脂材料)をある商社から仕入れているというものだ。

 日本では、商社経由で材料を入手するのは一般的であるが、中国ではそうとは限らない。連絡を受けた商社名は過去に聞いたことがなく、また成形メーカーはその商社名を最初は隠していたため、何か不信なものを感じた。

 しかし、たとえ商社に何か疑惑があったとしても、商社は材料を右から左に流すだけである。また、商流は商社を経由していても、ペレットは直接樹脂メーカーから送られる場合もある。商社経由で何か問題が起こり得るのか? そんなことに考えを巡らしていたが、これ以上の情報は得られなかったため、今度はその商社に向かうことにした。

正規のオペレーション 図2 正規のオペレーション[クリックで拡大]

ドライカラーで着色

 クルマで30分ほど走り商社に到着した。会議室に通され、筆者とODMメーカーの担当者、成形メーカーの担当者の合計6人でテーブルを囲んでしばらく待っていると、この商社の社長が現れた。社長は観念したような顔を見せていたが、突然10分間くらいまくし立て、怒った顔で去って行ってしまったのだ。もちろん中国語であったため、筆者にはよく理解できない。通訳してもらったところ、「樹脂メーカーから無色のペレットを購入して、この商社にある設備でドライカラー(色の付いた粉末)を用いて着色し、成形メーカーに納品していた」ということだった。

 ドライカラーの成分表も見せてもらった。社長は「全く同じ色に着色していて何が問題なのか!」と主張していたらしい。ビス固定部の亀裂は、このドライカラーに含まれた異物が原因だったのだ。

 リアカバーの材料は、そのメーカー名と型名、色番号を成形メーカーに指定し、樹脂メーカーから購入してもらう。図2では、医療用モニターのメーカーが、ODMメーカーにそれらを伝えていた。つまり、ODMメーカーからそれを伝え聞いた成形メーカーが、これらを商社に指定してペレットを購入しなければならないのだ。

 リアカバーの生産が始まった最初の約2年間は、成形メーカーはこの商社を経由して指定されたペレットを購入していたが、ある特定の期間に限って、無色のペレットをドライカラーで調色したものを購入していた。商社は、指定の色番号の代わりに無色を指定してペレットを購入し、過去に購入したペレットを色見本にして調色したのだ。

 この行為について、成形メーカーと商社のどちらが最初に言い出したのかは分からない。無色のペレットにドライカラーが混ぜてあれば、見た目ですぐに分かるため、この2社がグルであったことは間違いない。社長同士は昔からの友人であったらしい。ODMメーカーがこの件をどこまで知っていたかは定かではない。

不正を行ったオペレーション 図3 不正を行ったオペレーション[クリックで拡大]

 指定の色番号のペレットよりも無色のペレットを購入して調色した方が、最終的には安価だったのだろう。安価になった差額分を、成形メーカーと商社で分けていたと想像できる。無色のペレットは、別の色に調色すればまた別の顧客にも販売できるので、大量に安価で購入していたとも考えられる。

 実は、既に商社を訪問する前にこの確認は行っていた。樹脂メーカーからのペレットの出荷量と、成形メーカーの購入量を調べたところ、出荷量の方が多かったのだ。また、樹脂メーカーは、ある時点から無色のペレットを出荷していたことも分かった。その情報は、商社を訪問する前にはODMメーカーを通して、成形メーカーと商社にも伝わっていたらしく、商社の社長は観念し、まくし立てるしかなかったのだろう。こうやってようやく全貌が判明し、この問題は解決へと向かうことになった。

 この問題の発生したモニターは台数が限定的であったため、全てモニターごと市場で交換し、また再発防止のために成形前のペレットの材料分析、成形後にはリアカバーの強度確認を行うことにした。

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