北海道電力とアバナードは、MR(複合現実)技術を活用した巡視点検アプリケーションを共同開発し、国内で初めて火力発電所での使用を開始した。設備の巡視点検を行う火力発電所員は、マイクロソフトの「HoloLens 2」をベースとしたヘルメット一体型デバイスを装着し、開発した巡視点検アプリケーションを利用する。
北海道電力とアバナードは2022年7月26日、MR(Mixed Reality/複合現実)技術を活用した巡視点検アプリケーションを共同開発し、国内で初めて火力発電所での使用を開始したことを発表した。
今回の共同開発は、火力発電所におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)推進の一環として取り組むもので、今後、同アプリケーションのコンテンツ拡充を進めるとともに、火力発電所の巡視点検業務のさらなる高度化を目指すとしている。まずは、石炭火力発電所である北海道電力の苫東厚真発電所(北海道勇払郡厚真町)で運用をスタートさせ、順次その他の火力発電にも同アプリケーションを展開する考えだ。
同日行われた記者説明会(リアル/オンライン)では、北海道電力 火力部 火力情報技術グループ リーダーの宮崎浩一氏の他、MR技術を活用したアプリケーション開発を手掛けるアバナード ソリューション開発部 MR担当 マネージャーの武村禎一氏、全体のプロジェクト管理を主に担当したアクセンチュア インダストリーX本部 マネジャーの崎谷歩美氏が登壇し、取り組み内容の詳細について説明した。
北海道電力の宮崎氏は、MR技術を活用した巡視点検アプリケーションの開発背景について、「火力発電所内ではトラブルの未然防止のために、設備の巡視点検を実施しているが、多岐にわたる設備の異常を早期に発見するには経験とノウハウが必要となる。そうした中、定年退職に伴いベテラン技術者が減少し、これまで職場内研修などで習得していた巡視点検の技術を、効率的に継承していくことが課題となっていた」と述べている。
この課題を解消するため、北海道電力とアバナードは、火力発電所員がこれまで職場内研修や実務の中で習得してきた巡視点検に関する技術やノウハウについて、マイクロソフトのMRヘッドセット「HoloLens 2」およびMR技術を活用し、巡視点検ルートやその点検内容を明確にすることで、巡視点検業務の標準化/可視化が図れるアプリケーションを開発した。
巡視点検を行う火力発電所員は、HoloLens 2をベースとしたヘルメット一体型デバイス「Trimble XR10」(開発元:米Trimble)を装着し、開発した巡視点検アプリケーションを利用する。
MR空間上に表示された順路に沿って、移動しながら点検業務を行うことが可能で、現在地に対応した確認のポイントや作業指示、過去の不具合事例などの参考資料を自動的に表示してくれる。「この巡視点検アプリケーションを活用することで、巡視点検技術の早期習得に加え、技術レベルの標準化による設備異常の早期発見が可能になる」(宮崎氏)という。
今回開発したMR技術を活用した巡視点検アプリケーションは、マイクロソフトの「Azure Spatial Anchors」で空間認識を行うことで、HoloLens 2とクラウドサービスによる広範囲な巡視点検ナビゲーションを実現している。
巡視点検ルート上に表示する点検内容などのコンテンツ情報は、火力発電所員が自ら設定、編集することが可能となっている他、ナビゲーションに使用する巡視点検ルートは、空間アンカーと呼ばれるオブジェクトを配置することで設定できる。空間アンカーの配置時に、表示するコンテンツ情報なども併せて設定することが可能だ。また、配置した空間アンカーを移動/追加/削除することで、巡視点検ルートの変更が行える。
北海道電力は、道内企業で初めて経済産業省の「DX認定」を取得しており、今回の取り組みをDX推進の柱の1つに据え、全社展開につなげていく考えだ。具体的には、開発した巡視点検アプリケーションを苫東厚真発電所以外の主要な火力発電所にも横展開する他、現場業務におけるMR活用を推進する。さらに、苫東厚真発電で実証実験を行っているローカル5Gと、MR技術を組み合わせることで、デジタル技術を活用したさらなる業務改革に取り組むとしている。
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