特集:IoTがもたらす製造業の革新〜進化する製品、サービス、工場のかたち〜

この素晴らしいDXセキュリティに祝福を!事例で学ぶ製造業DXセキュリティ対策入門(8)(3/4 ページ)

» 2022年04月21日 10時00分 公開
[佐々木弘志MONOist]
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古井課長の知られざる過去の後悔

まだ終わったわけではありませんし、私のやり方だけが正解というわけでもないと思うので、あくまで参考程度でお願いします。


そうだね、確かにまだ終わってない。ところで青井さん、結構忙しい日々が続いているようだけど、体調は大丈夫かな?


はい、おかげさまでいつも元気です。それが取りえですので。休日は課長に言われた通り、仕事に役立ちそうな本を読んでいます。


それは何より。青井さんの仕事は、皆の努力を積み上げる方向を決める仕事だからね。その精度が悪いと、会社全体の損失になる。


そういわれるとプレッシャーですね。確かに、昔の残業当たり前の根性論ではうまくいかない仕事だなとは感じます。


全くその通りだ。ただ積み上げることが価値を生んだ時代はとっくに終わっているからね。


 急に真剣な表情になった課長がこちらを真っすぐに見ている。なんか悪いこと言ったっけ。

青井さんにはいつか伝えておこうと考えていたのだけど、ちょうどいい機会かもしれないね。私がなぜ工場長から情報システム部の課長になったのか。


そういえば、面白いキャリアパスだなとは思っていました。おかげさまで工場プロジェクトは、現場を知る課長のサポートでうまくいきました。


実は、今から10年前、私は工場長として現場の指揮を執っていた。当時は一時的に原油価格が上がってね、利益確保のためのコスト削減要求のおかげで、現場は残業限界を超えた稼働状態だった。


なんか昭和ですね。10年前だと平成ですけど。


そうだね、古い体質から抜け出せない会社だったんだ。黒川社長は、私の前任の工場長でね。鬼の黒川で有名な人だったんだ。


えー、あの優しい大黒様が!


そう、あの大黒様がだよ。私も前工場長の教え通り、根性論でとにかく仕事をすることが大事だと考えて現場を鼓舞していた。


今の課長からは想像できないですね。


現場が限界を超えたある日、私の部下が現場で事故に遭ってね。幸い一命を取り留めたが入院するほどの重症だったんだ。結局、彼が私の職場に戻ってくることはなく、そのまま退職してしまった。


……。


私は強く責任を感じてね。より自分が頑張らねばと思い、猛烈に仕事をした。というより仕事に逃げたんだと思う。結局、それで胃腸がやられてね。長期入院することになってしまった。


休職されたことがあるとは伺っていましたが、そういういきさつとは知りませんでした。


入院している間に、時間があったのでいろいろ本を読む機会があってね。原理原則の大切さ、仕事は量じゃなくて質が大事だとか、後悔とともに学ぶことができた。


 だから、私に休日仕事しちゃいけないとか、本を読みなさいとか、指導してくれたんだなぁ。同じ失敗を私にして欲しくなかったというわけか。

それで復職されたあと、工場じゃなくて情報システム部にいらしたんですね。


当時の黒川事業部長の計らいでね。私の趣味を生かした仕事に再配置してくれたんだ。役職もあえて課長にしてもらってね。自由にやりなさいと。黒川さんも私が入院したのがこたえたみたいでね。別人のように旧体質からの脱却に尽力するようになったんだ。


私が入社する前の話なので、全然知りませんでした。


だからね。青井さん、身体は大事。仕事は質が大事。頑張りアピールのために無駄なドキュメントたくさん作って仕事した振りしちゃダメだよ。


はい、ご指導ありがとうございます。


 セキュリティガイドラインの沼にはまってたとき、本来、自社工場に当てはまらない対策要件を「やったことにする」にはどうしたらいいのか、その言い訳のためのドキュメント作ろうとしていたな。あれは無駄だった。

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