AIスタートアップのIdeinがエッジAIプラットフォーム「Actcast」の事業展開を紹介。会見には協業パートナーのアイシンも登壇し、これまでの開発成果に加え、自動バレー駐車システムや、自動運転バスなどへの搭載を想定しているマルチモーダルエージェント“Saya”の開発状況を説明した。
AI(人工知能)スタートアップのIdein(イデイン)は2022年4月14日、東京都内で会見を開き、同社のエッジAIプラットフォーム「Actcast」の事業展開を紹介した。会見には協業パートナーのアイシンも登壇し、これまでの開発成果に加え、自動バレー駐車システムや、自動運転バスなどへの搭載を想定しているマルチモーダルエージェント“Saya”の開発状況を説明した。
2015年4月に創業したIdeinは、「ソフトウェア化された世界を創る」をビジョンとして掲げ、第3次ブームを迎えつつあったAIの社会実装に向けて事業を展開してきた。2018年に経済産業省のJ-Startupに選定されて以降さまざまな表彰を受け、2020年6月にはArmのAIパートナーに認定されている。資金調達額は累計33億円となり、従業員数も62人まで増えている。
IdeinがAIの社会実装に向けて展開を推進しているActcastは、2020年1月の正式リリースから採用が拡大しており協業パートナー数は140社を超えている。2022年に入ってからは、これまで積み重ねてきた協業パートナーとの実証実験が本格的な事業化の段階に進みつつあることもあり累計登録台数が急激に増加。同年3月23日に1万台突破を発表したが、4月末には1万5000台に到達するという。同社 CEOの中村晃一氏は「Actcastは新たなソフトウェア産業を支える存在になると確信している。正式リリースから5年で世界規模でのデファクト化という高い目標を立てているが、3年目に入った現時点で複数のパートナー企業が展開する街中の店舗に次々に導入されたことで累計登録台数が大きく伸びており、強い手応えを感じている」と語る。
このように採用が拡大するActcastの最大の特徴は、汎用エッジデバイスとして最も普及しているといえる「Raspberry Pi(ラズパイ)」をエッジAIのハードウェアとして活用する戦略だろう。一般的には、ラズパイにAIモデルを組み込んでも搭載するCPUの処理能力だけでは十分な速度を出せない。しかし、Actcastは独自開発のコンパイラによってラズパイ内蔵のGPUを活用したGPGPUで処理能力の限界を引き上げるとともにプロセッサ内のキャッシュメモリも有効活用することで、5米ドルの「Raspberry Pi Zero」であっても深層学習モデルを用いた画像ベースAIを高速に処理させることができる。AIモデルについてはモデル圧縮や量子化などは行っておらず、クラウドやサーバで開発したAIモデルをそのままコンパイラで処理してラズパイに実装でき、処理精度も低下しない点が高く評価されている。
安価なラズパイでAIモデルをエッジで高速に処理できるActcastによって、AIの社会実装に立ちはだかる「コスト」「運用」「プライバシー」という3つの壁を打破できる。中村氏は「この高速化技術を優位性としてエッジAIプラットフォーマーとして先んじることができ、多数のパートナー企業と活動を広げられている。今後は、パートナー企業との共創活動を含めたエコシステムも優位性として展開を広げていく」と述べる。
なお、これまでの導入事例としては、空港におけるテナントの来客分析、ショッピングモール内の人流計測、デジタルサイネージとAIカメラを組み合わせた店舗メディア化、大手通信キャリアによるAIマイクを用いた会話データ分析などがある。「今後はAI運用だけでなく、AIモデルの作成から維持までを自動化するMLOps的なプロダクトも開発中だ」(中村氏)という。
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