2020年9月の政府調達方針の変更を受け、2021年は国産ドローンの市場投入に向けたさまざまな活動が活発に展開された。年度内にドローンの目視外飛行可能なレベル4の法整備も行われる予定の2022年は、国産ドローン元年となるのだろうか。
空飛ぶロボット、無人航空機であるドローンが新産業として注目を集め始めたのが2010年代前半のことだ。フランスのParrotのiPhoneで操作できる「AR drone」などが話題となり、国内でもさまざまなベンチャーが設立されるなどドローン市場は活気がみなぎっていた。しかしその後のドローン市場は中国のDJIの一強と言っていい状況になり、国内のドローン産業もハードウェア開発を諦め、ドローンによる撮影/測量サービスなどにシフトしていく流れができていた。
2020年9月、国内ドローン産業を取り巻く状況に大きな変化が訪れた。日本政府が「政府機関等における無人航空機の調達等に関する方針」を公表し、政府調達のドローンについて、セキュリティ上の懸念のない機体を選定することを決めたのだ。これによって、DJIをはじめとする中国製ドローンは、政府調達の対象から外れるだけでなく、一定程度公的な利用が想定される民間向けドローンについても選定対象から外れることとなった。つまり、国内市場のほとんどを占めていた中国製ドローンを代替するような、セキュアなドローンが急きょ求められることになったのである。
2020年度の国内ドローンビジネス市場(インプレス総合研究所調べ)は、機体が607億円、サービスが828億円、周辺サービスが405億円で合計1841億円。2025年度には、機体が1310億円、サービスが4361億円、周辺サービスが797億円で合計6468億円と、2020年度の3.5倍に拡大する。最も市場が伸びるのはサービスだが、サービスの提供内容に大きな関わりを持つ機体の市場に大きなゲームチェンジが起きたわけだ。
そこで、政府調達を中心とする新たな需要に対応すべく一気に注目を集めることになったのが、経済安全保障の観点からも安全安心な調達が可能になる、日本国内で設計製造する「国産ドローン」である。まず、2020年9月発表の政府方針に先立って、2020年度からNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトで開発が進められていた“安全安心なドローン”がその代表になるだろう。ドローンベンチャーの自律制御システム研究所(ACSL)と、ヤマハ発動機、NTTドコモ、ザクティ、先端力学シミュレーション研究所(ASTOM R&D)の5社が参加しており、2021年12月には小型空撮ドローン「SOTEN(蒼天)」として発表された。
SOTENは、セキュリティ製品の国際標準であるISO 15408に準拠するとともに、ドローンで取得した撮影データや飛行経路データなどを暗号化して通信する機能を備え、通信によって収集するデータも国内クラウドで集積することで保護できるようになっている。また、機体の主要部品には国産品もしくは信頼性の高い海外からの調達品を採用している。まさに、先述の政府調達方針に対して満点で応える製品に仕上がっている。
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