「つながるクルマ」が変えるモビリティの未来像

システムが担う運転の「認知」「判断」「操作」、深化と普及が進むMONOist 2022年展望(2/3 ページ)

» 2022年01月27日 11時00分 公開
[齊藤由希MONOist]

2022年から進む安全技術の発展

 レベル3の自動運転システムが世界で初めて製品化され、ハンズオフ機能が広がり始めた2021年に対し、2022年以降は、高度なADASやレベル3の自動運転の普及と競争が一層進みそうです。

高速道路のハンズオフが量販車種にも

 例えば、トヨタ自動車は新型「ノア/ヴォクシー」で時速40km以下の渋滞時の運転支援機能を搭載し、一定の条件下でステアリングから手を離せるようにしました。量販車種にもハンズオフが広がります。ただ、ノア/ヴォクシーに搭載される機能はレベル3の自動運転ではありませんので、ドライバーが周辺を監視し続け、いつでも運転に復帰できる状態であることが必須です。

 この機能で使用するセンサーはカメラとミリ波レーダーで、LiDARを使うAdvanced Driveのように特別な構成ではありません。これまでの「Toyota Safety Sense」と同様にさまざまな車種で展開できるセンサーです。

購入後の性能向上

 ハンズオフに限りませんが、販売後の車両でのADASのアップデートも広がりに注目です。ハンズオフに必須の高精度地図は各社とも定期的に更新していますが、それ以外の領域でもアップデートが少しずつ進みそうです。

 トヨタ自動車は、販売後もソフトウェアの更新によって機能の追加や性能向上を図ることを前提にMIRAIやLSに搭載したAdvanced Driveを開発しました。今後数年でニーズが高まりそうな機能のリストを社内で作った上で、中核となるECU(電子制御ユニット)の演算性能や容量、処理速度などの販売後の“伸びしろ”を決めたとのことです。

 2021年10月のLSの一部改良では、幾つかの運転支援機能の制御で性能向上を実施し、一部改良前にAdvanced Drive対応モデルを購入したLSユーザーもソフトウェアアップデートによって同様の機能を入手できるようにしました。また、発売当初のAdvanced Drive対応のLSはLiDARを1つしか搭載していませんでしたが、車両の左右と後方にもLiDARが追加できるようになりました。追加されたLiDARは、将来的な性能向上に役立てるとしています。

 新型ノア/ヴォクシーも販売後のソフトウェアアップデートに対応しており、最新の運転支援機能を備えられるよう進化させます。ノア/ヴォクシーとLSに共通するのは、販売後のクルマの使われ方のデータ収集にも対応できるという点です。実際の使い方に即して運転支援機能を改善することで、ユーザーにとっても利便性を実感しやすくなりそうです。

レベル3の自動運転と、構築した仕組みのフル活用

 ホンダの次にレベル3の自動運転システムを製品化するのは、メルセデス・ベンツです。2020年9月に「Sクラス」の新型車を披露し、渋滞時に利用可能なレベル3の自動運転「DRIVE PILOT」を追って提供することも発表しました(なお、メルセデス・ベンツはレベル3の自動運転が準拠すべき国際基準「UN-R157」を世界で初めて満たした、とプレスリリースで主張しています)。

 当初は2021年後半にドイツでDRIVE PILOTが利用可能になるとアナウンスしていましたが、2022年前半の提供となりました。導入当初はDRIVE PILOTの最高速度は時速60kmに制限しますが、規制緩和に応じて無線ネットワークによるアップデート(OTA:Over-The-Air)で機能を拡張していく予定です。また、ドイツ以外の欧州各国や米国、中国でも、DRIVE PILOTを順次導入する計画です。

メルセデス・ベンツが2022年前半にドイツでDRIVE PILOTを提供[クリックで拡大] 出所:メルセデス・ベンツ

 レベル3の自動運転システムを含むホンダセンシングエリートを搭載したレジェンドは100台限定生産でしたが、ホンダは製品化に当たってさまざまな知見やノウハウを得ました。

 2022年に中国で発売する新車から搭載を始める「ホンダセンシング360」では、そうした知見やノウハウを活用します。ホンダセンシング360では、単眼カメラに加えて5つのミリ波レーダーを搭載し、車両の全周囲をセンシングします。これにより、衝突被害軽減ブレーキの検知範囲を広げて交差点や出会い頭など対応場面を増やす他、車線変更時に後方から接近する車両との衝突を回避する操舵アシスト、車線変更支援などさまざまな機能を実現します。

 レベル3の自動運転システムを製品化する際に高いハードルとなったのは、「合理的に予見される防止可能な人身事故が生じないこと」を証明するという作業です。システムが自ら事故を起こさないと客観的に示さなければなりませんでした。その中で重要になったのは、さまざまなシナリオでシステムの動作を確認するシミュレーションです。

 ホンダではレベル3の自動運転システムの開発のため、実証実験車で日本の高速道路を延べ130万kmも走行しています。走行テストでは、割り込みを含めさまざまなシチュエーションに遭遇しますが、新しいシーンに遭遇するたびに効率的にテスト用のシナリオとして残していく仕組みを構築しました。割り込みのシナリオであっても、どのような車間距離で、どんな風に割り込んでくるか、さまざまなパラメータが存在します。そうした膨大なシナリオとパラメータでアルゴリズムをテストするため、ホンダとしては初めて大々的にMILS(Model in the Loop Simulation)を活用しました。

 レベル3の自動運転システムの開発の中で蓄積したシナリオは、ホンダセンシングエリートの簡易版となるような下位の(とはいえ高度な)ADASの開発にも有効です。走行テストで得たシナリオを効率的にシミュレーションに取り入れる仕組みは、ADASはもちろん、レベル3の自動運転システムを日本以外に展開するときにも活用されます。

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