東芝デバイス&ストレージは、パワー半導体の市場規模が、2020年の2兆円から2025年には3兆円に拡大し、2030年には3兆5000億円を超えると見込んでいる。2020〜2025年の年平均成長率は8.3%で、その成長をけん引する低耐圧MOSFETと高耐圧MOSFET、IGBTに注力する方針である。「2030年には、シリコンベースのパワー半導体に加えて、SiC(炭化シリコン)やGaN(窒化ガリウム)などの化合物半導体が市場を形成するようになるだろう。シリコンを置き換えるというよりも市場を上積みするイメージだ」(高下氏)。
パワー半導体の対象アプリケーションは、アウトプットパワー(VA)と電力変換のスイッチング周波数(Hz)を両軸としたグラフで示されることが多い。SiCやGaNといった化合物半導体は、シリコンパワー半導体では実現が難しかったアウトプットパワーやスイッチング周波数に対応するとともに、電力変換損失も1桁%以上削減できる。今後は、自動車の電動化や洋上風力発電、データセンター、鉄道などでの応用が期待されるという。
東芝デバイス&ストレージは、シリコンパワー半導体と化合物半導体の両面で製品開発に注力している。まず、低耐圧MOSFETについては、300mmラインの導入による生産量と技術力の向上を図りつつ、高品質な車載パッケージの開発を進める。現行製品は第9〜10世代となっているが、産業用や車載、耐圧などで分かれるそれぞれの製品ラインで2〜3年ごとに世代を更新する際に「従来比で20%程度の性能向上を実現していく」(高下氏)としている。
これら東芝のMOSFETは、業界トップレベルの低オン抵抗と高速スイッチングを低耐圧、高耐圧の双方で達成し、商品化しているという。
まず低耐圧MOSFETの「U-MOSシリーズ」は、20〜250Vで約500製品と幅広い耐圧ラインアップをそろえ、高効率化との両立が難しい低ノイズ性能も追求しつつ、競合他社製品に対する効率の優位性も確保している。X軸が導通時損失を示すRDS(ON)、Y軸がスイッチング損失を示すQOSStypのグラフでマッピングしたベンチマーク結果でも、競合他社製品を上回っている。最新世代は第10世代の「U-MOSX-H」となる。
高耐圧MOSFET「DTMOSシリーズ」は、高速スイッチングの実現、スイッチングロスの削減、高効率動作で競合他社と比べて高い性能を実現できているとする。最新の第6世代「DTMOSVI」は、スーパージャンクション構造およびゲート構造を最適化することで、低オン抵抗と高速スイッチング性能の両立を実現した。
さらに高耐圧が求められるハイパワーデバイスの有力な製品としては、IGBTのエミッター素子構造を工夫したIEGTを用いたパワーモジュール「Press Pack IEGT(PPI)」を挙げた。4500V、3000AというkV、kAクラスに対応するパワー半導体製品である。PPIは、はんだとワイヤボンディングを用いずに全ての接続を圧接で行うことで、熱疲労に対する信頼性や高い耐放熱性と耐候性を実現している。スタック構造によって直列接続で使用する場合には、万が一製品破壊してもコレクターとエミッター間の短絡状態を保てるので、装置の運転継続が可能というメリットもある。
PPIをはじめとする同社のハイパワーデバイスの応用例となるのが高電圧直流送電(HVDC)用変換機を用いる送配電システムだ。北海道・本州間の直流連係設備や、中国各地の高電圧直流送電設備で採用されているという。
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