皆さんは将来の自動運転車の在り方や、高齢者の移動問題がどのようになると思いますか。運転が好きな方は、自分の身体機能や認知機能が衰えたときに未練なく免許を返納できるでしょうか。それとも、いつまでも運転できる方法を探すでしょうか? 今の技術や社会から、ちょこっと妄想してみませんか。
ご安全に! 自動車部品メーカーで働くカッパッパです。
今回はショートショートです。「自分で運転したい高齢者の意向を尊重しながら、安全なクルマを普及させるにはどうすればいいか」という疑問からストーリーを思い付きました。
もしかしたら、ある一定の年齢以降は免許が強制的に返納となり、運転することが禁止される……そんな未来もあるかもしれません。
皆さんは将来の自動運転車の在り方や、高齢者の移動問題がどのようになると思いますか。運転が好きな方は、自分の身体機能や認知機能が衰えたときに未練なく免許を返納できるでしょうか。それとも、いつまでも運転できる方法を探すでしょうか? 今の技術や社会から、ちょこっと妄想してみませんか。
「ブオーン」
エンジンをかけ、クルマが始動する。シートに座り、クルマに命を吹き込むこの瞬間。私は1番好きな時間だ。クルマは単なる「乗り物」ではない。人と一体となって走る相棒なのだ。
昨今では電気自動車だとか自動運転だとかが普及し、自分でクルマを運転しない奴もたくさんいる。確かにクリーンで乗っているだけのクルマは環境にも優しく、とても楽な空間だろう。単なる「乗り物」であればそれで十分だ。しかし運転する喜びを忘れてはいないだろうか。人とクルマが一体となって走るその喜びを。
私は運転が好きだ。エンジンが好きだ。ガソリンが好きだ。ハンドルが好きだ。アクセルが好きだ。ブレーキが好きだ。MTのシフト操作が好きだ。クラッチが好きだ。
街中で、住宅地で、高速道路で、峠道で、林道で、海岸で、砂漠で、サーキットで。この地上で行われるありとあらゆるクルマの運転が大好きだ。コーンを並べたサーキットの一角で白煙と共にドリフトをきれいに決めるのが好きだ。ヘアピンカーブでギリギリスピンなく駆け抜けたときなど心がおどる。高速で合流と同時に一気に加速し、前方車を抜き去るのが好きだ。
後ろからあおって来たクルマに道を譲って抜き返したときなどは胸がすくような気持ちだった。クリーン主義の電気自動車を街中で排気ガスを出しながらガソリン車で抜く様などはもうたまらない。少なくなったガソリンスタンドで給油するときに漂うあの匂いも最高だ。
自動運転ばかりになってクルマを運転しない若者が増えた様は、とてもとても悲しいものだ。自動運転車に囲まれ、奴らに合わせた速度で街中を這い回るのは屈辱の極みだ。
私は運転を、人機一体となった運転を望んでいる。よろしい、ならばドライブだ。
ゆっくりとクルマが前進し始める。今日向かうのは病院だ。大した距離ではないが、運転するこの一瞬一瞬が楽しみなのだ。周囲の家族は運転なんてやめてほしいというが、運転こそがわが人生。徐々にスピードを上げ、ゆっくりと走っている自動運転車を追い越していった。
「本当に困ったものよね。半ばボケ始めているというのに、運転だけはやめようとしないんだから」。病院に行く父を送り出しながら、ため息をつく。
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