本連載第64回で触れたように、トランプ政権下の米国保健福祉省(HHS)は、「Meaningful Use」に代わる医療IT推進施策となる「Promoting Interoperability(PI)」の導入に向けて、HIPAAプライバシー規則改正案の策定作業を開始した。
その後2020年12月10日には、HHS傘下の公民権室(OCR)が、「調整されたケアと個人の参画を支援し障害を取り除くためのHIPAAプライバシー規則改正提案」(関連情報)を公表している。OCRは、その骨子として、以下のような点を挙げている。
現行のHIPAAプライバシー規則には、電子健康記録(EHR:Electronic health record)の定義がなく、HITECH法(経済的および臨床的健全性のための医療情報技術に関する法律)の定義が準用されてきたが、上記の改正案では、HITECH法に準拠したEHRの定義をHIPAAプライバシー規則に拡張するよう提案している。加えてOCRは、HITECH法で定義された個人健康記録(PHR:Personal Health Record)の定義をベースに、HIPAAプライバシー規則で「個人健康アプリケーション(Personal Health Application)」を定義するよう提案している。
なお、トランプ政権からバイデン政権への移行を受けて、OCRが、HIPAAプライバシー規則改正案に関する意見募集期間を延長する(関連情報など、最終版の公表時期が遅れている。2021年秋には、バイデン政権下でOCRの責任者が指名され、最終版取りまとめに向けた作業の加速が期待される。
このようなHHSによるHIPAAプライバシー規則改正に向けた動きと並行して、FTCは、トランプ政権下の2020年5月8日、健康侵害通知規則の一部見直し提案に関する意見募集を開始した(関連情報)。
FTCは、この意見募集に際して、以下のような課題点を挙げている。
前述の健康アプリケーション/デバイスに関する政策声明書は、バイデン政権下のFTCが発出したものだ。FTCは、健康分野だけでなく、金融、消費財製造、デジタルサービス、教育など、幅広い分野の消費者プライバシー保護政策に関わっている。加えて、本連載第54回で触れたように、FTCは、13歳未満の子供を対象とした児童オンラインプライバシー保護法(COPPA)も所管しており、グーグル(Google)および傘下のYouTubeのCOPPA違反事案に関連して、総額1億7000万米ドルの制裁金を科すなど、HHS傘下のOCRや食品医薬品局(FDA)よりも高額なレベルの制裁金を設定する傾向がある。
バイデン政権は、2021年5月12日に発令した「国家のサイバーセキュリティの向上に関する大統領令」(関連情報)の中でも、プライバシー保護規制の順守を強調しており、消費者保護政策の観点から、FTC主導の健康アプリケーション/機器関連規制の動向を注視する必要がある。
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