実際に、パワーモジュールの異常検知で重要なパラメータとなる温度予測で開発したAI技術を適用し妥当性を確認している。実際に、多数のパワーデバイスやプリント基板、冷却フィンなどから構成されるパワーモジュールについて、開発技術によって自動生成した物理モデルによる温度予測の結果は、3Dモデルを用いた詳細な数値シミュレーションによる温度予測の結果ほぼ同等の高い精度になった。
その一方で計算時間は、詳細数値シミュレーションと比べて自動生成した物理モデルは数千〜数万分の1と極めて短いのでリアルタイムに物理モデルを生成し続けることが可能になる。また、非常に少ないデータ量で物理モデルを生成できるとともに、従来の物理モデルの生成で必要だった機器の寸法や部品の物性データも不要なことも特徴になる。「これら特徴によって、機器運用時に逐次更新して物理モデルの変化を見て、予知保全としての対策を立てられるようになる」(鈴木氏)。
パワーモジュールの場合であれば、運用1〜10日目のセンサーデータからAIが自動生成した物理モデルと、運用100日目のセンサーデータに基づく物理モデルを比較した場合、冷却器の接触による熱の伝わりやすさを表す「熱伝導B」の係数が減少しているので、対策として冷却器の接触具合を確認するという対策を立てられる。運用200日目のセンサーデータに基づく物理モデルと比較した場合には、「強制空冷」の項が消えて自然空冷の項が新たに出現していることから、ほこりによる冷却ファンの目詰まりを確認するという対策につなげられる。
現時点での関数候補DBについては、パワーモジュールへの適用で必要になった熱に関わる関数候補をまとめたものが用意されている。鈴木氏は「冷却ファンによる強制空冷だけでなく、より複雑な系になる自然空冷についても対応可能な充実度を持った関数候補DBになっている」と説明する。振動、摩耗、疲労などの構造系の事象についても、東芝が持つ知見やノウハウ、学会などで共有されてきた知識を組み合わせることで同様の充実度を持つ関数候補DBは構築可能だという。例えば、鈴木氏が熱の関数候補DBを構築するのにかかった時間は「1日+α」(同氏)だったという。
また、今回の開発技術は、3Dモデルを用いたシミュレーションの計算時間を短縮するROM(縮退モデル:Reduced-Order Model)に基づくものであり、3Dシミュレーションの高速化など、予知保全以外への応用展開も期待できそうだ。
なお、新技術の詳細は、オンラインで開催される機械工学の国際学会「IMECE(International Mechanical Engineering Congress)2021」の中で2021年11月5日(日本時間)に発表される予定である。
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