スーパーコンピュータで発電用ガスタービンの数値シミュレーションを高速化:CAEニュース
NECと東北大学は、スーパーコンピュータを活用し、発電用ガスタービンの数値シミュレーションを高速化する技術を開発した。同技術を用いて、従来は約9日かかっていた非定常熱流動の全周シミュレーションを1.3日に短縮した。
NECは2021年10月15日、スーパーコンピュータを活用し、発電用ガスタービンの数値シミュレーションを高速化する技術を開発したと発表した。東北大学大学院 教授の小林広明氏が代表を務める、文部科学省の次世代領域研究開発「量子アニーリングアシスト型次世代スーパーコンピューティング基盤の開発」における成果だ。
再生可能エネルギーが普及する中、天候変化などによる電力負荷変動が安定供給への課題となっている。現在はその変動を補うため、ガスタービンと蒸気タービンで構成するコンバインドサイクル発電が利用されており、効率的に発電できるタービンの設計開発が求められている。その際、タービン内で発生する物理現象を支配する、マルチフィジックス熱流動の研究が重要となっていた。
今回の研究では、東北大学が開発した、マルチフィジックス熱流動の非定常大規模シミュレーションを可能にするマルチフィジックスCFD技術を活用。これに東北大学およびNECのスーパーコンピュータによる高速化と大規模並列化技術、東北大学サイバーサイエンスセンターのスーパーコンピュータ「AOBA」を組み合わせ、発電用ガスタービン圧縮機における非定常熱流動全周シミュレーションの高速化を試みた。
タービンの構造は複雑で、従来の手法では、発電用ガスタービン圧縮機1.5段における非定常熱流動の全周シミュレーションに約9日かかっていた。スーパーコンピュータによる高速化技術を利用することで、これを1.3日に短縮した。
非定常熱流動の全周シミュレーションの時間を短縮 出所:NEC
なお、AOBAは、NECのベクトル型スーパーコンピュータ「SX-Aurora TSUBASA」を採用している。そのため、これまで両者が共同で研究開発してきた、SX-Aurora TSUBASA向けの最適化技術を数値シミュレーションに応用している。
両者は今後、高速かつ高精度なデジタルツインシミュレーションを活用し、高効率で耐久性の高いタービンの実用化を目指す。また、水素燃焼や新たなエネルギー資源に対応する発電効率の高いタービン設計の研究を進め、脱炭素社会の実現に貢献していく。
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