連載
» 2021年10月21日 10時00分 公開

【総括】デライトの目指す先とその実現に向けて必要なことデライトデザイン入門(8)(2/3 ページ)

[大富浩一/日本機械学会 設計研究会,MONOist]

いくつかの製品のデライトを分析

 ここで3種類のデライト製品(これらの製品をデライトと思うかどうかは個人によるが)について、そのデライトを分析評価してみたい。

デライト製品事例A:ゴミを取る装置

 図4は、「デライト製品事例A:ゴミを取る装置」である。一般には、掃除機、クリーナーといわれているもので、吸引してゴミを取るというその原理から真空掃除機、バキュームクリーナーともいわれる。この原理は今に至るまで基本的に変わっていない。

デライト製品事例A:ゴミを取る装置 図4 デライト製品事例A:ゴミを取る装置[クリックで拡大]

 初期に用いられていたゴミ集塵(しゅうじん)用の布フィルターが紙パックに代わり、さらにサイクロンの導入で紙パックを不要とした。また、最近はバッテリー、モーターの性能向上により、コードレスが主流となっている。このように、ゴミを取るという行為がクリーナーの登場、進化により飛躍的に「便利」になっている。また、サイクロン、高性能モーターの導入により、クリーンな排気を実現するとともに、当初問題となった騒音もかなりのレベルにまで低減できるようになった。これらの効果はある意味、人に「幸福」をもたらしていると考えることができる。ただ、現在のクリーナーが完成形だとはいえない。実際にクリーナーで掃除してみると分かるが、デライトデザインの視点では目指すべき未来形があるように思う。

デライト製品事例B:髪を乾かす装置

 次の事例は、図5に示す「デライト製品事例B:髪を乾かす装置」である。この装置は一般にドライヤーといわれており、図4の事例と同様、温風で髪を乾かすという原理は当初から変わっていない。ドライヤーを使用して不便に感じるのは、コードが邪魔であるということだ。そのため、使用する場所も制約される。このような背景の下、連載第6回で、コードレスドライヤーの試作を検討してみたが、実はこのドライヤーにはヒーターが内蔵されていない。これは従来の“ヒーターで空気を暖めて、ファンで温風を送る装置”では、ヒーター部分の消費電力が大きくなり、現状のバッテリーで実現できないからだ。コードレス化を実現するためには、“髪を乾かす原理自体を考え直す必要がある”。

デライト製品事例B:髪を乾かす装置 図5 デライト製品事例B:髪を乾かす装置[クリックで拡大]

 その1つの試みとして、最近、従来の“温風で髪を乾かす”方式ではなく、“髪を暖めて風で乾かす”方式を採用することによって、コードレス化を実現したドライヤーが登場した(参考文献[2][3])。赤外線で直接髪を暖め、そこに風を当てて乾かす方式である。これにより消費電力が従来の4分の1程度になり、コードレス化が可能になっている。髪を暖め過ぎないので“髪に優しい”とあるが、この当たりは今後の評価に任せたい。このようにいわゆるドライヤーも「便利」さを追求してきたが、「幸福」も少しずつ訴求できてきているように感じる。

デライト製品事例C:音楽を聞く装置

 最後は、既に取り上げた音楽を聞く装置である。図6に「デライト製品事例C:音楽を聞く装置」を示す。

デライト製品事例C:音楽を聞く装置 図6 デライト製品事例C:音楽を聞く装置[クリックで拡大]

 録音して音楽が聞ける→いつでもどこでも音楽が聞ける(携帯可能)→いつでもどこでも好きな音楽を聞ける(ネット接続)→多機能(聞く/見る/撮る/つながる)と「便利」は飛躍的に向上している。だが、その一方で、音楽を聞く楽しみ、写真を撮る楽しみといった「幸福」視点でのデライトが十分に考慮されていないようにも思う。現状の流れとは一線を画す「便利」と「幸福」のバランスの取れたデライト製品を創出したい領域である。

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