AGV+協働ロボットでツール搬送を自動化、デジタル人作業支援も行うDMG森精機:スマート工場最前線(2/2 ページ)
伊賀事業所では、組み立て工程における人作業支援なども進めている。DMG森精機では2020年12月に米国のスタートアップ企業Tulipが開発したデジタル化により製造現場の生産性向上を支援する「TULIP(チューリップ)」を国内展開する新会社「T Project」を設立したことを発表しているが、このTULIPを伊賀事業所に導入することで、人作業における支援やミス低減に取り組んでいる。
TULIPは製造現場の課題解決をデジタル化で支援する製造支援アプリケーション作成プラットフォームである。作業手順書や品質管理、機器モニタリングなど多様な機能を持つアプリケーションを、プログラミングレスで現場担当者自身が簡単に作成できることが特徴だ。
紙の作業手順書や品質チェックシートのデジタル化、生産データの見える化、工程改善などを簡単に行え、製品仕様や工程の変化にも柔軟に対応できる。さらに、製造現場では計測機器や既存システムなどとも連携可能だ。そのため、現場での改善活動に合わせてシステムを進化させたり、現場の機器やセンサーを組み合わせた便利な使い方が開拓できる点が強みとなっているという。
伊賀事業所では、第2組み立て工場において、ボールねじで使用される筐体である送り箱の組み立てラインでこの「TULIP」を採用。ドライバーなど各種機器と連動させ、各種作業や品質記録をデジタルデータとしてリアルタイムに記録させることで、作業者の負荷低減に加え、作業効率や品質の改善にもつながっているという。
伊賀事業所で「TULIP」を導入した送り箱ライン組み立てエリア。各種ツールでの作業記録が自動でデータ化されるようになっている[クリックで拡大]
「大きく分けて3つの効果が生まれている。1つ目は品質記録の信頼性の向上だ。ツールからダイレクトに記録が取り込まれるため、記録の抜け漏れやミスがなくなり、記録をベースに改善などを進めやすくなった。2つ目はリアルタイムで実績が取れるという点だ。作業の結果がすぐに把握できるために改善のスピードを上げることができる。3つ目が、データの再利用性の向上だ。集めたデータは現場だけでなくクラウドに送り込んでおり、後工程のデータや前工程のデータと組み合わせることで製品の流れ全体を考えた改善なども行えるようになる」(DMG森精機)と価値を訴えている。同社ではさらにこれらの人作業支援の活用の拡大にも取り組んでいく方針を示している。
≫「スマート工場最前線」のバックナンバー
- プログラミングレスの現場作業支援基盤を展開、DMG森精機が新会社設立
DMG森精機は米国Tulipが開発した、デジタル化により製造現場の生産性向上を支援する「TULIP」を国内展開する新会社「T Project」を2020年9月に設立し、本格展開を開始したことを発表した。
- 4つの用途で積層造形市場を拡大、DMG森精機がAM搭載複合加工機新製品を開発
DMG森精機は2021年9月30日、旋削とミーリングを1台で行う複合加工機にレーザー金属積層造形技術であるアディティブマニュファクチャリング(Additive Manufacturing、積層造形技術、以下AM)を融合したレーザー金属積層造形機「LASERTEC 3000 DED hybrid」を開発し、市場投入を開始すると発表した。
- ローカル5Gで自律走行型ロボットを遠隔操作、DMG森精機とNTT Comが実証実験
DMG森精機とNTTコミュニケーションズは2020年5月21日、ローカル5Gを活用して、無人搬送車に人協働ロボットを搭載した自律走行型ロボットの遠隔操作を行う共同実験を開始した。
- スマート工場は“分断”が課題、カギは「データ取得」を前提としたツールの充実
工場のスマート化への取り組みは2020年も広がりを見せているが、成果を生み出せているところはまだまだ少ない状況だ。その中で、先行企業と停滞企業の“分断”が進んでいる。新型コロナウイルス感染症(COVID−19)対応なども含めて2021年もスマート工場化への取り組みは加速する見込みだが、この“分断”を解消するような動きが広がる見込みだ。
- スマートファクトリー化がなぜこれほど難しいのか、その整理の第一歩
インダストリー4.0やスマートファクトリー化が注目されてから既に5年以上が経過しています。積極的な取り組みを進める製造業がさまざまな実績を残していっているのにかかわらず、取り組みの意欲がすっかり下がってしまった企業も多く存在し2極化が進んでいるように感じています。そこであらためてスマートファクトリーについての考え方を整理し、分かりやすく紹介する。
- エッジは強く上位は緩く結ぶ、“真につながる”スマート工場への道筋が明確に
IoTやAIを活用したスマートファクトリー化への取り組みは広がりを見せている。ただ、スマート工場化の最初の一歩である「見える化」や、製造ラインの部分的な効率化に貢献する「部分最適」にとどまっており、「自律的に最適化した工場」などの実現はまだまだ遠い状況である。特にその前提となる「工場全体のつながる化」へのハードルは高く「道筋が見えない」と懸念する声も多い。そうした中で、2020年はようやく方向性が見えてきそうだ。キーワードは「下は強く、上は緩く結ぶ」である。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.