パナソニックでは、HD-PLC商品群の事業については、グループ内のライフソリューションズ社エナジーシステム事業部で、配線器具や分電盤など電設資材を扱うパワー機器BU(ビジネスユニット)が担当している。電設資材と組み合わせて、情報関連商材のHD-PLCアダプターやHD-PLCプラグを展開し、配電情報インフラへ進化させることを目指す。これまでWi-Fiが届かない、LAN工事がでないなどの理由でICTの環境が整っていなかった、地下やトンネル、スタジアム、工場、倉庫などの閉鎖空間や長距離環境での導入を図っていく方針だ。「HD-PLCは現代の二股ソケットだと考えている」(パナソニック)。
HD-PLCの市場規模は、最近は産業分野での使用が増えている。HD-PLC搭載デバイスの世界需要は同分野において2020年度累計で400万個を達成した。2023年度(2024年3月期)には690万個へ増加する(年率20%増)と予測している。実際に同社の2021年度4〜7月のHD-PLCアダプターの販売実績は前年同月比39%増を記録した。今後の需要についても2023年頃には、第4世代のチップの投入が予定されており、通信速度は第3世代のほぼ2倍に高まることが見込まれ、市場は一層拡大することが期待される。
大規模な導入実績も増えており、代表的なものとして名古屋大学のインターナショナルレジデンス東山(寮)、長野県の旅館、新長崎トンネル、ジャパンアスリートトレーニングセンターや工場での電力計測に使われるケースなどがある。
このうち名古屋大学の寮の事例では、137戸ある部屋でのインターネット通信用途で用いられており、HD-PLCアダプターを159台納入した。同寮では学生からの要望で、インターネット環境の早期工事完了の必要があった。有線LANの場合は入札に約3カ月、工事に約1カ月かかる。光ケーブルは工事に2週間必要となる。また、ポケットWi-Fiを採用すれば、回線使用料に月額27万円がかかる計算となり、コスト面でも大きな課題が残った。
これをHD-PLCの採用で、工事費用は当初の予算から半減。ランニングコストもポケットWi-Fiと比べわずか3%に抑えることができた。工事期間は2〜3日で、PLCアダプターの発注から工事完了までの期間は約3週間に収まった。さらに、当初懸念された通信速度についても、通信する住戸に対してはフィルターを使って、系統ごとに分割することでネットワークごとに割り当てる戸数を抑制したことにより、通信速度は15〜20Mbps程度を確保しており、Web会議やリモート授業などにも対応できる状況となっているという。
パナソニックでは、HD-PLC事業をまずは国内市場を中心に販売を進め、これらの実績をもとにノウハウを蓄積した上で、需要の大半を占める海外市場へ攻勢をかけることを目指す。売り上げ面には2023年度には2020年度比2倍に引き上げる方針だ。
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