実際に、濃度8%(質量体積%)の塩化ナトリウム水溶液を用いた水吸引性能の検証では、被処理液となる塩化ナトリウム水溶液の濃度を19%まで濃縮できることを確認した。なお、逆浸透膜法を用いた塩化ナトリウム水溶液濃縮の限界値が濃度8%とされており、これを大幅に上回ることになる。また、常温における塩化ナトリウム飽和水溶液の濃度が約26%であることからも、この19%という数値が良好であることが分かる。さらに、この19%という濃縮を達成したときの浸透圧物質と水の割合は重量比で1:1だった。実証実験で用いた正浸透膜は、市販されているアクアポリン(AQUAPORIN)製であり、東芝独自のものではない。
一方の分離性能についても、CO2を吸収して均一に溶解している浸透圧溶液を70℃に加温することで、CO2が抜気された後、上層に浸透圧物質、下層に水が分離されることを確認した。このときの分離性能で99%以上を達成したとする。
今回の浸透圧物質の開発は、東芝が手掛けているCCS(Carbon dioxide Capture and Storage:二酸化炭素回収・貯留)技術との関連が深い。CCSでは、発電所や工場、プラントなどで排出されるCO2を吸収する材料としてアミン系物質が用いられるが、このアミン系物質がCO2を吸収するという特性と濃縮技術に応用可能な水処理を絡めて、今回の技術開発に向けたコンセプトの着想を得たという。
なお、新開発の浸透圧物質の詳細については、2021年9月22〜24日に開催される「化学工学会第52回 秋季大会」(岡山大学 津島キャンパスとオンラインのハイブリッド開催)で発表する予定だ。
学会発表されるところから分かる通り、現時点では研究室レベルでの実証実験が終わった段階だ。今後は、小型試験装置による連続運転評価や、化学品や医薬品の製造、廃液処理、レアメタル回収といったアプリケーションごとの実証を進める。実用化については「まずは東芝グループ内のプラントなどで実績を積んだ上で、グループ外に提案していくという流れになるのではないか」(同社)としている。
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