東芝は、インバーターやDC-DCコンバーターなどの電力変換器に広く用いられているパワー半導体のIGBTについて、電力のオンとオフが切り替わるスイッチング時の損失を従来比で最大40.5%低減できる「トリプルゲートIGBT」を開発したと発表した。今後、信頼性の確認など実用化に向けた開発を進めて、2023〜2024年に製品化を判断したい考え。
東芝は2021年6月2日、インバーターやDC-DCコンバーターなどの電力変換器に広く用いられているパワー半導体のIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)について、電力のオンとオフが切り替わるスイッチング時の損失を従来比で最大40.5%低減できる「トリプルゲートIGBT」を開発したと発表した。今後、信頼性の確認など実用化に向けた開発を進めて、2023〜2024年に製品化を判断したい考え。今回の研究成果は、パワー半導体の国際学会「ISPSD2021」(2021年5月30日〜6月2日、オンライン開催)で発表される。
トリプルゲートIGBTは、その名通り、ゲート電極を3つ持つIGBTである。東芝は、これら3つのゲート電極のオン/オフを高精度に切り替えるゲート制御技術を開発し、導通損失を増加させることなく、ゲート電極が1つだけの従来のIGBTと比べて、スイッチング時のターンオン損失を50%、ターンオフ損失を28%、全体で最大40.5%の電力損失を低減することに成功した。
トリプルゲートIGBTのゲート電極は、メインゲート(MG)と第1コントロールゲート(CGp)、第2コントロールゲート(CGs)の3つから成り、これらを独立に駆動させることが特徴となる。まずターンオン時は、MGとCGpに対してCGsが遅延して駆動するように制御を行うことで、MG、CGp、CGsの3つのゲート電極が同時にオンになる。その結果、IGBT内にキャリア(電子とホール)が高速に注入、蓄積されることで、スイッチング時間が高速化し、ターンオン損失を低減できる。
一方、ターンオフ時は、CGsはオフ状態としておき、MGに対してCGpを先にオフにする制御を行うことで素子内部の電子とホールを減少させる。これにより、MGがオフになるタイミング、すなわち、IGBTが完全にターンオフする時は電子とホールが高速に消滅し、ターンオフ損失を低減できるというわけだ。
1980年代に発明されたIGBTはこれまでも低損失化が進められてきたが、2010年以降は性能飽和の壁にぶつかっており、効率向上の観点で足踏みしていることが大きな課題となっていた。東芝 研究開発センター 先端デバイス研究所 電子デバイスラボラトリー 室長の高尾和人氏は「トリプルゲートIGBTは、この性能飽和の壁をブレークスルーするものになり得る」と語る。
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