そうした中、同社は“シミュレーションベースのデジタルツインの実現”を提案する。「装置から得られる実際の稼働データなどをIoT(モノのインターネット)プラットフォームが取得し、それらをAI(人工知能)モジュールが学習して、今後起こり得る事象を予測するといったことは既に行われている。実際の稼働データやセンサーデータなどを蓄積して、AIモジュールが十分に学習できる段階に至って、予測精度が次第に向上していくわけだが、その予測精度を一定以上に向上させることは難しい。こうした状況に対して、アンシスは物理現象を考慮したシミュレーションベースのデジタルツインの実現を提案する」(大谷氏)。
同社が提案するシミュレーションベースのデジタルツインとは、デジタルツインの対象となる装置や機器などの設計段階において実施された各種検討や検証、シミュレーションに加え、デジタルツインの構築を前提とした高度な3Dシミュレーションを設計段階で実行し、これらシミュレーション結果と同社独自のAIモジュールによって1次元のツインモデルを生成。それを実行形式のモジュールとして、稼働中のIoTプラットフォームに送り込むというもの。実行形式のモジュールは、実際のセンサーデータなどの値を受け取り、シミュレーションで得られた結果と比較したり、決められたデータや動作を返したりといったことが行われるという。「実際には遠い位置にある設計データと、オペレーションデータをツインモデルで連携することにより、高精度なデジタルツインを実現し、予知保全、リアルタイム可視化、装置最適化などのさらなる精度向上に役立てたい」と大谷氏は説明する。
また同社は、こうしたデジタルツインの効果を普及、促進するために、現在200社以上がメンバーとして参加する「Digital Twin Consortium」の創設メンバーとしても活動している。「コンソーシアムでは、デジタルツインの各種技術の開発やそれらをオープンに利用してもらうための標準化、標準アーキテクチャ開発などに取り組んでいる」(大谷氏)。実際、このような活動の成果として、Rockwell AutomationやVolkswagen Motorsportとの協業によるデジタルツイン活用事例なども生まれている。
さらに、今後実現したい次世代のデジタルツイン活用の方向性として、大谷氏は「システムオブシステムズと呼ばれるような大規模な環境、スマートシティに代表される街の中における5G通信、自動運転車の通信などをシミュレーション環境で実現し、その結果を、実際の街の各種オペレーションにフィードバックしていく。そのような大規模なデジタルツインを実現していきたい」と述べる。
このような今後のデジタルツインの普及、展開を進める上では、パートナーの協力が欠かせない。そこで同社は2021年7月にSB C&SとVAD(Value Added Distributor)契約を締結。同社が展開するデジタルツインの販売、導入やマーケティング活動をSB C&Sが支援する。「今後、SB C&Sとの戦略的パートナーシップを軸に、今回紹介したようなわれわれが提案するデジタルツインの方向性を、一緒に実現していきたいと考えている」(大谷氏)。
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