「スカイラインを諦めません」の意味を深読みしたい記者心理自動車業界の1週間を振り返る(1/2 ページ)

コロナ禍の生活も1年半が経過し、会見や説明会はオンラインが当たり前になりました。YouTubeなどで配信されることも珍しくないのですが、以前は会見を配信してくれる親切な企業はあまり多くなかったと記憶しています。会場に行かずに会見を通しで見るには、どこかのメディアが生中継してくれることを期待するしかありませんでした。

» 2021年06月19日 08時00分 公開
[齊藤由希MONOist]

 土曜日ですね。1週間お疲れさまでした。コロナ禍の生活も1年半が経過し、会見や説明会はオンラインが当たり前になりました。YouTubeなどで配信されることも珍しくないのですが、以前は会見を配信してくれる親切な企業はあまり多くなかったと記憶しています。会場に行かずに会見を通しで見るには、どこかのメディアが生中継してくれることを期待するしかありませんでした。

 会見に出席する側の気持ちを想像するとプレッシャーですよね。メディアの人間だけでなく、一般の視聴者も最初から最後まで会見を見られるようになりました。配信の設定によっては、会見終了後でも繰り返し視聴できてしまいます。そうした状況を踏まえると、日産自動車 副社長の星野朝子氏が新型車「ノート オーラ」のオンライン発表会で「日産はスカイラインを諦めません」と最後に言い添えたのは、自動車ファンを強く意識してのことだったように見えます。

スカイラインの存続やいかに(クリックして拡大)

 発端は、日本経済新聞が掲載した『日産の象徴「スカイライン」、開発に幕 SUVに押され苦戦 EVなどに集中』という記事です。「開発中止は主要な取引先に通達した」と日経の記事にはありました。成長が見込まれるEV(電気自動車)などに集中するという報道を前向きな材料として受け止められたのか、日産の株価もアップしました。しかし、星野氏は「そのような意思決定をした事実はない」と言い切りました。

 スカイラインを「諦めません」という表現は意味深です。スカイライン(あるいはセダン)が厳しい環境にあり、日産が諦めても不思議ではない状況だからこそ「諦めない」という言葉を選んだように思えます。次期モデルを開発中だとか、フルモデルチェンジの予定があると前向きな計画を匂わせることもできたであろう状況で、「諦めない」という言葉が使われたからには決してスカイラインが安泰ではないことが想像できます。

 言葉尻を捕らえて揚げ足を取っていると思われますか? 人間、最適な言葉がパッと出てこなかったり、言おうと思っていたのとは違う表現になったりすることはよくあります。しかし、上場企業の役員ともなれば、十二分なメディアトレーニングを受けており、メディアの前で発した一言一句がどう受け止められるかを理解しているはずです。日産がスカイラインをどのようにして生き残らせていくのか、注目ですね。

電動車3兄弟の行方は

 生き残る、生き残らないでいえば、ホンダの燃料電池車(FCV)「クラリティ フューエルセル」やクラリティのプラグインハイブリッド車(PHEV)、フラグシップセダンの「レジェンド」、ミニバンの「オデッセイ」の生産打ち切りも報じられました。

 クラリティは電動パワートレイン3兄弟のセダンで、FCVとPHEV、EVを、1つのミドルサイズのプラットフォームに展開しました。大人5人が余裕を持って乗車できることや、ゴルフバッグが複数個搭載できることなどにこだわっています。2018年に取材したとき、クラリティシリーズの開発責任者は「SUVであれば電動車でもパッケージングは難しくなかった。5人乗りのセダンに電動パワートレインを収める中で学んだことは、他の車両タイプを電動化する時の『M・M思想』に生かしていく」と語っていました。

 実際に5人乗るかどうかは別にして、乗車定員が5人であることは重視されます。5人乗れる電動車にする、というのはホンダだけでなくトヨタ自動車も「プリウスPHV」やFCV「ミライ」で苦心したテーマです。5人乗りセダンに3種類の電動パワートレインを収めることに成功して、ホンダからするとクラリティシリーズは一定の役割を終えたのかもしれません。「SUVであれば電動車でもパッケージングは難しくない」とすれば、2040年に四輪車をFCVとEVのみにする目標はより現実的なものとなりそうです。

 「世界初」だと先陣を切ってレベル3の自動運転システムを搭載されたばかりのレジェンドが生産終了となるのは、とても残念に思えました。100台限定のリース販売だったのが一般販売に拡大する可能性がなくなったからです。しかし、クラリティシリーズと同様に製品化するまでに培った経験やノウハウに価値があったと考えることもできそうです。LiDARの使い方はもちろん、「合理的に予見される防止可能な人身事故が生じないこと」を達成するための、MILS(Model in the Loop Simulation)やHILS(Hardware in the Loop Simulation)を活用したシミュレーションは、レベル3の自動運転システムを100台限定とはいえ製品化したからこその知見です。日本の高速道路を延べ130万km走ったデータもあります。

 売れるか売れないかを度外視して、製品として成立させることを目的に実験的にクルマを開発するのは、あまりにもぜいたくです。クラリティの次に出てくるFCV、レジェンドの次に出てくるレベル3の自動運転車が楽しみですね。

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