Armの日本法人アームが、最新アーキテクチャ「Armv9」をベースとする次世代コンシューマー機器向けプロダクトIP群を発表。CPUやGPU、システムIPを組み合わせたシステムレベルでより高い性能とエネルギー効率を発揮できる「Arm Total Compute」ソリューションとして提案を進めていく方針を明らかにした。
Armの日本法人アームは2021年5月26日、オンラインで会見を開き、同年3月に発表した最新アーキテクチャ「Armv9」をベースとする次世代コンシューマー機器向けプロダクトIP群を発表した。CPUの「Cortex-X2」「Cortex-A710」「Cortex-A510」、GPUの「Mali-G710」「Mail-G510」「Mali-G310」、システムIPの「Arm CoreLink CI-700」「Arm CoreLink NI-700」などから成り、これらを組み合わせたシステムレベルでより高い性能とエネルギー効率を発揮できる「Arm Total Compute」ソリューションとして提案を進めていく方針を明らかにした。
アーム 社長の内海弦氏は「Armチップが1秒当たり900個出荷され、GPUも世界シェアトップとなるなど、世界はArmベースのコンピューティングに移行しつつある。今後は最新アーキテクチャであるArmv9ベースでさまざまな市場に展開し、今後10年間の用途特化型プロセッシングを担っていきたい」と語る。
ArmのプロダクトIPで最も広く知られているのは、スマートフォンなどモバイル機器向けの「Cortex-Aシリーズ」だろう。今回発表したArmv9ベースのプロダクトIP群でも2022年ごろの市場投入が予想されているノートPCやハイエンドスマートフォン向けのCortex-X2、Cortex-A710、Cortex-A510が発表された。しかし、アーム リージョナルマーケティング・ディレクターの菅波憲一氏は「機器の進化が加速する中で、個別のIPレベルで性能を議論することにはあまり意味がない。Armとしては、システムやプラットフォームのレベルでの性能を突き詰めるために『Compute Performance』という方針を打ち出した」と説明する。
このCompute Performanceに加えて、パートナーとともにシステムレベルでセキュリティを守るための「Security」、次々と登場する新しいサービスに必要な機器を低コストかつ短期間で開発できるようにプラットフォームレベルでIPを提供するする「Develop Access」を戦略の軸に据え、今回発表したのがArm Total Computeというソリューションになる。
具体的には、単にプロダクトIPを組み合わせて機器を構築するのではなく、「ノートPCやスマートフォン、デジタルTVなどの用途(セグメント)ごとにフォーカスし、さらにハイ、ミッド、ローという複数の階層(ティア)ごとに作り上げていくというアプローチをとっている」(菅波氏)という。
この戦略変更を前提として、菅波氏は従来通りにCPUやGPU、システムIPごとの性能向上についての説明を行った。
まず、シングルスレッド性能を極めた「Cortex-X2」は、2020年5月に発表した「Cortex-X1」の後継となるフラグシップCPUだ。従来比でCPU性能は16%向上し、ML(機械学習)性能は2倍になっている。Cortex-A710は、Cortex-Aシリーズで展開してきた「big.LITTLE」構成のbigコアに当たるCPUだ。従来の「Cortex-A78」と比べて、CPU性能は10%、エネルギー効率は30%向上し、ML性能は2倍となった。LITTLEコアに当たるCortex-A510は、4年ぶりの新IPのリリースとなった。従来の「Coretx-A55」と比べて、CPU性能は30%、エネルギー効率は20%向上し、ML性能は3倍を達成している。さらに、複数コアを搭載することになるCPU間をつなぐDSU(DynamIQ Shared Unit)は従来比で帯域を5倍にした「DSU-110」を提供する。
スマートフォン向けCPUでほぼデファクトスタンダードを握ったArmとして、次に攻略すべき市場はノートPCだ。既にアップル(Apple)の「M1」チップを搭載する「Macintosh」が存在感を示しているが、今後はやはりWindows PCでのシェア拡大が重要になる。菅波氏は、Cortex-X2のピークシングルスレッド性能は2020年発売のメインストリームノートPCと比べて40%高性能であることを示すとともに、Arm版Windowsにオンライン会議ツール「Zoom」が対応を表明することなどを訴えた。
また、Arm Total Computeによって実現できる性能向上の目安として、2022年に市場投入されるであろう今回のArmv9アーキテクチャに基づくCPUで構成したシステムと、2021年に市場投入される「Armv8.2」アーキテクチャに基づくCPUで構成したシステムの性能比較を行った。この比較では、ピーク性能で30%、エネルギー効率で30%、LITTLEコア側の処理性能で35%の向上が可能になるという。
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