VUCAの時代を迎える中、製造業のエンジニアという職業は安泰なのだろうか。本連載のテーマは、そういった不確実な時代でもエンジニアの強みになるであろう「コンサルティング力」である。最終回となる第13回は、これまでの連載で見つけることができたであろう解決策について、「伝わる提案書」として仕上げるポイントを紹介する。
ほぼ1年にわたって続けてきた連載も、今回が最後になります。いよいよこれまでの工程で見つけてきた解決策を提案する段階です。ここでは、「伝わる提案書」のポイントをお伝えしたいと思います。
⇒連載「VUCA時代のエンジニアに求められるコンサルティング力」バックナンバー
解決策は自社の上長、あるいはクライアント側の管理職に提案することになりますが、いかに提案書にまとめ上げるかが鍵になります。よりよい提案書を作成するために、提案書を「書き始める前」「書き始めてから」「書き終えたとき」の3つの段階に分けて重要なことを整理していきます。
まず、書き始める前に考えておくべきなのが「要素」と「ストーリー」です。プロのコンサルタントの提案書には、大きく以下の7つの要素が必要であるとされています。
お分かりのように、2.には帰納法によって、3.には演繹法によって見いだした内容が当てはまります。以上の7つを順に整理していけばそのまま1つのストーリーとなりますが、提案書を作成する前に強く意識しておくべき点は、以下の3点です。
「提案書の内容」は、提案書に必要とされる7つの要素のうち「1.提案書の概要」で説明されるものです。これが簡潔に分かりやすく整理されていないと、提案をスムーズに受け入れてもらえなくなります。また、その軸を提案書の最後まで一貫して通すことが大切です。
一方、2つ目と3つ目のポイントは、「誰に提案書を出すのか」という判断に関わります。現場に近い課長に出すのか、その上の部長、本部長に出すのか。あるいは、小規模の企業であれば、役員クラスに出すケースもあり得るでしょう。それを決めるためには、「この提案書によって誰と何を合意し、誰に価値を与えるのか」という視点が欠かせません。現場の課題を解決するための提案を経営レベルに持って行っても仕方がないですし、逆に全社的なものを現場の長に提案しても、役員層まで伝わらない可能性もあります。提案が最も機能しやすい提案先と伝達先を戦略的にあらかじめ考え、それを踏まえて提案書のストーリーをつくらなければなりません。
書き始めてから意識すべきことは、「見せる」を意識した構成にすることです。提案書は責任ある立場の人に出すことになります。そのような人は皆非常に忙しいので、文字だらけで読ませる部分が多いと、「結局読んでもらえない」場合が少なくありません。そこで、できるだけ図やチャートを多く使って、直感的に伝わる内容にすることです。しかし、ビジュアルだけを増やしても、逆に意味が伝わりにくくなります。「1つのビジュアルに1つのメッセージ」というセットで構成することを意識してください。
「見せる」提案書づくりに大切なもう一つのポイントは、読む人の「視線の動き」を考えることです。人間の目は左から右に、上から下に情報をたどります。その「Zの流れ」を意識することで、提案書は格段に分かりやすくなります。また、文字の色などを適宜変えて、特に重要な内容に目がとどまるような工夫をするのも有効です。
最後に、提案書を書き終えたときには必ず全体を見返してください。文書の「てにをは」「ですます」調と「である」調の混同、フォントのサイズや色の統一などを確認します。「そんなことはやっている」と思われるかもしれませんが、私たちがこれまで見てきた1000以上の提案書の中には、これらの点で誤りがあるものが数多くありました。文書作成の基本的なお作法のミスがあると、提案書そのもののイメージが低下してしまいます。せっかく、作成した提案の内容が受け入れられなくなるのを防ぐために、最終的なチェックをしっかりしてください。
さて、ここまで読んできてもなお、「自分の提案は本当に受け入れられるのだろうか」と不安に感じている人もいるかもしれません。心配には及びません。本質的な問題を捉え、提案書がしっかりつくられていれば、その提案を否定されることはほぼありません。実際に問題解決にまで至る確率は70〜80%はあると考えていいでしょう。責任ある立場の人たちにとって、エンジニアからの提案は貴重な情報です。知らなかったことを教えてくれたと感謝されることはあれ、迷惑がられることは決してありません。
この連載の第1回で、VUCAの時代にはコンサルタント的視点、言い換えると問題解決力がなければエンジニアは生き残っていけないと私は書きました。逆に言えば、これまで1年間にわたって私がお伝えしてきたことを実践すれば、確実に生き残っていけるということです。人口が減っていくこれからの時代に、問題解決力を持つエンジニアはますます貴重な人財となります。問題解決は実学です。学校や座学では学べないものであり、実際に取り組むことで確実に身に付いていくものです。しかし簡単に身に付くものではないと感じる方もいらっしゃるかもしれません。そうした方でも、日常生活や業務の一部から始めて継続していく中でふと気が付くと大きな力が付いていると感じる日が必ず来ます。
これからの時代、ますますAI(人工知能)やロボットにはない能力が求められます。問題解決者としてよき伝道師となり、いつまでも活躍できる人財となられることを応援しています。
1年間、連載にお付き合いくださいまして、ありがとうございました。(連載完)
大手メーカーへ新卒入社し、エンジニアとして勤務後、2005年にエンジニア派遣事業を展開する株式会社VSNへ中途入社。エンジン、トランスミッション、エアーバッグ、カーオーディオ、ブレーキ、メーターなどの頭脳部分となる車載用マクロコンピュータの開発に従事後、エンジニア全体の組織の管理職としてエンジニアの組織化を推進。
その後、問題解決の育成プログラムの構築やコンサルティングサービスの促進を担当。2021年1月からグループ会社であるアデコ株式会社のアウトソーシング部門へ出向し、請負業務におけるコンサルティング視点での活動強化に携わる。
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