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» 2021年05月18日 14時00分 公開

設計改革の優先順位はどうやって決めるべき? 考え方のコツモノづくり革新のためのPLMと原価企画(2)(2/2 ページ)

[株式会社プリベクト 北山一真,MONOist]
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「上流からの改革」が成功要因

 前回のの連載「『効率化』には明るい未来はない、DX時代に目指すべきシステムコンセプト」でも触れているが、受注可否判断や開発のGo/NoGo判断などの重要な意思決定は、設計の上流段階にあたる個別受注企業の見積設計、企画量産型の基本構想設計で行う。その上流段階で決めた内容が、詳細設計の制約となってしまうため、意思決定を高度化する上流改革は重要なのである。

 しかし、多くの設計改革は、詳細設計部分/出図部分/部品表部分にフォーカスを当ててしまっている。そもそも、個別受注企業において、受注前段階で行われる見積設計は設計改革の範ちゅうに含まれるという意識が薄くなりがちである。そのため、プロセスも不明確で、場当たり的にドタバタで対応している。一方で、受注後の出図管理や実行予算管理は明確なプロセスで運用している。企画量産企業も同様である。試作/試験後の詳細設計に関する改革は進みつつあるが、DR(デザインレビュー)0や1などの基本構想設計は改革が遅れ、属人的な仕事がそのままになっているのだ。「設計改革=詳細設計部分の改革」という固定観念を捨てることが大切である。

 上流から奇麗なデータを流せば、下流工程の仕事は整流化され、自ずと課題が解決されることもある。詳細設計に比べれば設計範囲は狭く、下流への波及効果も大きいため、優先的に実施される領域なのだ。例えば、仕様情報の見える化や、見積設計ナレッジの見える化、見積設計プロセスの整理などが該当する。

 しかし、上流改革を進める際に気を付けるべき点もある。上流プロセスは担当者が少なく多忙を極めているため、改革に前向きになってくれないことが多い。改革プロジェクトを立ち上げることが非常に難しいのだ。また、属人的な仕事で成り立っているため、「自分設計が一番」と思っているケースが多く、見える化や標準化に対してどうしても大きく抵抗することがある。こうした場合には経営トップの大号令を使い、強制力をもって改革に着手することも必要である。

根拠情報を残すことの重要性

 個別受注企業における受注可否判断は、事業収益に影響を及ぼす重要なプロセスである。顧客要求を正しく認識し、それに基づいて製品スペックを決め、方式選定や概略寸法を決め、重量計算・原価計算を行い、見積仕様書として回答する。そして、見積仕様書の内容は、受注後の詳細設計に大きな制約となり得るのだ。

 しかし、そんな重要な見積設計や受注可否判断に関わる根拠情報や基準情報を全く残していない企業がほとんどである。顧客仕様はヒアリングメモや顧客受領図面への手書きメモでしか残っておらず、製品スペックや概略寸法の検討は経験者の勘で判断していることも多い。例えば、見積時点での寸法検討はある程度余裕をもたせた寸法にするが、その余裕の取り方も属人的に感覚的に行われている。このように、多くのことが基準もなく属人的な判断のため、根拠情報が不明なのだ。根拠情報がなければ、意思決定が正しかったのか、評価や振り返りができない、次の案件の見積設計や受注可否判断の精度を組織的に向上させることができないのだ。

 だからこそ、顧客要求は「仕様管理DB(データベース)」として管理し、製品スペックや方式選定、概略寸法を決めた根拠(見積設計ナレッジ)も「設計諸元DB」として管理することが必要になる。仕様管理や諸元管理の入力においては、担当者にできる限り負荷をかけない工夫も必要である。テクノロジーを駆使すれば、見積図(CAD)から自動的に寸法抽出を行ったり、技術計算書や見積仕様書の各種数値を自動抽出したり、データベース化したりすることもできる。設計諸元DBとコストテーブルを用いることで、原価計算明細も自動的に生成可能だ。テクノロジーが発達した現在、これらの仕組みは構築の難易度は低くなり、また比較的安価に行えるようになった。

「実績」に基づき、「実力」を見える化する

 上流段階での仕様、設計、原価の根拠情報が残っていれば、実績値との適切な比較が行える。例えば、受注可否判断時の目標利益は出たのか。目標利益に届かなかった場合、その原因はなにか。どのような仕様変更・設計変更が起きたのか。それは防げなかったのか。また、原価基準やコストテーブルはそもそも正しかったのか。など、さまざまな実績評価を行うべきである。それら適切な評価を行うためにも、意思決定の根拠情報が必要なのだ。

 意外と認識されていないが、「実績データ」と「実力データ」は異なる。実力データとは、上流段階での意思決定を行うための、原価基準やコストテーブル、設計基準や見積設計に関わるナレッジのことである。実績を上流段階のデータと比較し評価することで、「実績データ」を「実力データ」に変えられる。実績管理をしている企業は多いが、それを実力データに転換できている企業は少ない。また、実力データは案件を積み重ねるたびごとに、蓄積したデータの経年管理を行って、データの“実力値”が向上しているかを確認し続けなければならない。

 まとめると、DXを通じた改革における優先順位の考え方としては、「上流からの改革」が挙げられる。開発のGo/NoGo判断や受注可否判断など重要な意思決定をしているからだ。上流で適切な見積設計/基本構想設計を実施するためには、「実力データ」が必要となる。実績を評価することで、実力データにすることができ、その実力データに基づいたさまざまな根拠情報をしっかり管理することで、案件の振り返りができることになるのだ。「上流からの改革」と「実力データの見える化」は、最優先課題の1つとなる。現場ヒアリングからこの課題が出てこなくても、優先的に取り組むべきテーマなのだ。このように、改革の優先順位の考え方を整理し、改革ロードマップを立ててもらえればと思う。

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筆者プロフィール

株式会社プリベクト
北山一真(きたやまかずま)

IT系コンサルティング会社、製造業系コンサルティング会社ディレクターを経て、プリベクトを設立。競争力ある製品/もうかる製品の実現のため、設計と原価の融合をコンセプトにした企業変革に取り組む。業務改革の企画/実行、IT導入まで一気通貫で企業変革の実現を支援。プロフィタブルデザイン、設計高度化、設計ナレッジマネジメント、製品開発マネジメント、原価企画、原価見積、開発購買、ライフサイクルコスティング、意思決定管理会計、BOM、PDM、PLMなどのコンサルティングを手掛ける。

著書に「儲かるモノづくりのためのPLMと原価企画」(東洋経済新報社)、『赤字製品をやめたら、もっと赤字が増えた!-儲かる製品を実現するコストマネジメント-』(日刊工業新聞社)、『プロフィタブル・デザインiPhoneがもうかる本当の理由』(日経BP社)他多数執筆。

◇企業情報:株式会社プリベクト


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