なぜ製造現場のAI活用がうまくいかないのか:いまさら聞けないスマートファクトリー(7)(4/4 ページ)
枠組みそのものが変化する環境ではAIの運用が難しくなるという点を踏まえて、固定化された環境で適用するというのも1つの手段です。
先ほどおっしゃっていた「固定化された環境」というのはどういうことですか。
まあ、枠組みそのものが変化しない部分で使うという意味ね。例えば、シンプルなものだと品質データや装置の電流値をグラフ化して、その形状から異常状態を見つける場合なんかが考えられるわね。これらを組み合わせるケースも多いわね。
確かに異常時の波形パターンがある程度限定されるものもありますし「正常時の波形パターンと異なる場合」と設定することもできますね。複数データを組み合わせる使い方だと、異常発生時の要因分析なども楽になります。
こうした複数データの相関を捉え、正常時と異なる状況を見つけ出すなどの作業はAIの得意分野といえるでしょう。季節変動や経年変化でグラフの数値自体は変動する可能性がありますが、グラフ化された動作の波形などはあまり変化しません。こうした固定化された枠組みで学習モデルを構築すれば、長く使えるAIモデルを構築することが可能となります。
また、最近では、AIモデルの標準化も進んでおり、AI同士を組み合わせて活用するような仕組みも構築しやすくなっています。画像認識でAIを活用し、その分析でも別のAIを活用するというような仕組みが一般化してきた他、先述したような季節変動に合わせたAIモデルの適用をAIで判断するというようなこともやりやすくなってきました。
こうした技術の進歩を見極めながら、「費用対効果」が合う領域はどこか、製造現場の「変化」にどう対応するかを見極めて、AIを適用していくことが製造現場でのポイントだと考えます。
さて今回は製造現場のAI活用について解説してきました。次回も、製造現場において失敗するパターンや見過ごされがちなポイントについてさらに掘り下げたいと考えています。
≫連載「いまさら聞けないスマートファクトリー」の目次
- 人手作業のデータ化、ポイントは「自然に自動で」
成果が出ないスマートファクトリーの課題を掘り下げ、より多くの製造業が成果を得られるようにするために、考え方を整理し分かりやすく紹介する本連載。前回から製造現場でつまずくポイントとその対策についてお伝えしていますが、第6回では、人手さ作業のデータ化についてさらに掘り下げます。
- スマートファクトリー化がなぜこれほど難しいのか、その整理の第一歩
インダストリー4.0やスマートファクトリー化が注目されてから既に5年以上が経過しています。積極的な取り組みを進める製造業がさまざまな実績を残していっているのにかかわらず、取り組みの意欲がすっかり下がってしまった企業も多く存在し2極化が進んでいるように感じています。そこであらためてスマートファクトリーについての考え方を整理し、分かりやすく紹介する。
- なぜ工場でネットワークを考えないといけないのか
インダストリー4.0や工場向けIoTなどに注目が集まっていますが、そもそも工場内のネットワーク環境は、どのように構築すべきなのでしょうか。本連載では、産業用イーサネットの導入に当たり、その基礎から設備設計の留意点などを含めて解説していきます。
- “不確実”な世の中で、企業変革力強化とDX推進こそが製造業の生きる道
日本のモノづくりの現状を示す「2020年版ものづくり白書」が2020年5月に公開された。本連載では3回にわたって「2020年版ものづくり白書」の内容を掘り下げる。第2回では、“不確実性”の高まる世界で日本の製造業が取るべき方策について紹介する。
- エッジは強く上位は緩く結ぶ、“真につながる”スマート工場への道筋が明確に
IoTやAIを活用したスマートファクトリー化への取り組みは広がりを見せている。ただ、スマート工場化の最初の一歩である「見える化」や、製造ラインの部分的な効率化に貢献する「部分最適」にとどまっており、「自律的に最適化した工場」などの実現はまだまだ遠い状況である。特にその前提となる「工場全体のつながる化」へのハードルは高く「道筋が見えない」と懸念する声も多い。そうした中で、2020年はようやく方向性が見えてきそうだ。キーワードは「下は強く、上は緩く結ぶ」である。
- 工場自動化のホワイトスペースを狙え、主戦場は「搬送」と「検査」か
労働力不足が加速する中、人手がかかる作業を低減し省力化を目的とした「自動化」への関心が高まっている。製造現場では以前から「自動化」が進んでいるが、2019年は従来の空白地域の自動化が大きく加速する見込みだ。具体的には「搬送」と「検査」の自動化が広がる。
- 自律するスマート工場実現に向け、IoTプラットフォーム連携が加速へ
製造業のIoT活用はスマート工場実現に向けた取り組みが活発化している。多くの企業が「見える化」には取り組むが、その先に進むために必要なIoT基盤などではさまざまなサービスが乱立しており、迷うケースも多い。ただ、これらのプラットフォームは今後、連携が進む見込みだ。
- 見えてきたスマート工場化の正解例、少しだけ(そもそも編)
製造業の産業構造を大きく変えるといわれている「第4次産業革命」。本連載では、第4次産業革命で起きていることや、必要となることについて、話題になったトピックなどに応じて解説します。第28回となる今回は、スマート工場化において見えてきた正解例について前提となる話を少しだけまとめてみます。
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