ザイリンクスはAI(人工知能)カメラ向けに同社のプログラマブルSoC「Zynq UltraScale+ MPSoC」やメモリ、周辺部品などを小型ボードに集積したSOM製品「Kria(クリア)」を発売する。第1弾の「Kria K26」などをセットにしたスターターキット「Kria KV260」の価格は199米ドル(約2万1500円)と安価だ。
ザイリンクス(Xilinx)は2021年4月20日(現地時間)、AI(人工知能)カメラ(以下、ビジョンAI)向けに同社のプログラマブルSoC「Zynq UltraScale+ MPSoC」やメモリ、周辺部品などを小型ボードに集積したSOM(System on Module)製品「Kria(クリア)」を発売すると発表した。第1弾となる「Kria K26」とキャリアボード、ソフトウェア開発キットなどをセットにしたビジョンAIスターターキット「Kria KV260」の価格は199米ドル(約2万1500円)で、既に出荷可能な状態にあるという。
SOMは、プロセッサ、メモリ、周辺部品などを搭載するクレジットカードサイズの小型ボードの総称である。産業用ボードコンピュータやCOM Expressなどのように規格化されていないものの、ソフトウェア開発に必要な要素が小型ボードにまとまっていて低コストで購入でき、SOMと開発したソフトウェアをそのまま量産品にも展開できることから市場が拡大している。SOM市場は年平均11%で成長しており、2025年までに23億米ドル(約2500億円)に拡大すると予測されている。
今回発表のKria K26は、ザイリンクスとして初めてのSOM製品となる。クアッドコア構成の「Arm Cortex-A53」と25万6000個のシステムロジックセルなどを搭載するZynq UltraScale+ MPSoCを中核に、4GBのDDR4メモリ、MIPIなどのカメラインタフェース、総帯域幅40Gbpsのイーサネット、USBインタフェースなどの周辺回路を、横77×縦60×厚さ11mmのボードに集積している。主な用途として、スマートシティーやスマートファクトリー向けのビジョンAIを挙げており、1.4TOPSのAI処理性能を持ち、H.265/265のビデオコーデックにより4K60P映像の処理にも対応できる。
ザイリンクス 産業/ビジョン/医療機器マーケット担当ダイレクターのチェタン・コーナ(Chetan Khona)氏は「ビジョンAIは急激な市場拡大とユースケースの増加で多様化し断片化している。現在、この急速に進化するビジョンAIをエッジに最適な状態で組み込めているかというとそうではない。特に組み込み型GPUは、市場の要望に対応できていないのではないか。そこで、ザイリンクスとしてソリューションを提供すべきではないかと考え開発したのがKriaだ」と語る。
Kriaの最大の特徴は先端のプログラマブルSoCによる高いAI処理性能を持つSOMを安価に購入できるとともに、ソフトウェア開発も容易に行える点にある。
プログラマブルSoCやFPGAを用いた製品の開発でハードルになってきたのが、一般的なソフトウェア開発者にとってなじみのないVerilogやVHDLなどのハードウェア記述言語だ。Kriaでは、そうした一般的なソフトウェア開発者でもプログラマブルSoCの機能を活用できるような仕組みを用意してハードルを下げたとする。
まず、ビルド済みのハードウェアとソフトウェアをセットにしたプラットフォームとしてKriaを提供する。OSのLinuxは、これまでもザイリンクスが提供してきたyoctoプロジェクトベースの「PetaLinux」の他、カノニカル(Canonical)が展開する「Ubuntu」も利用可能になった。
Kriaを用いたビジョンAIのソフトウェア開発は4つの手法を選択できる。1つ目は、ソフトウェア開発者はArmコアで動作するアプリケーションの開発を行い、ビジョンAI機能はザイリンクスがアプリストアで提供するものを用いるという手法だ。このアプリストアのビジョンAI機能は、ザイリンクスだけでなくパートナー企業からも提供される予定だ。
2つ目は、自社で開発したAIモデルを組み込む場合で、AI開発環境の「Vitis AI」を用いることで自由にAIモデルを入れ替えることができる。3つ目は、AIモデルの前処理や後処理の回路構成に手を加えるレベルの開発を行う場合で、FPGA開発環境の「Vitis」を活用することになる。VitisはPythonやC言語に対応しているので、ハードウェア記述言語を使う必要はない。そして4つ目は、従来通りにハードウェア記述言語を用いてFPGA回路部をフルカスタムで開発する手法になる。
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