製造業はGAFAの下請けとなるのか、とり得る選択肢IVI公開シンポジウム2021春(1)(1/3 ページ)

「つながる工場」実現に向け、製造業、製造機械メーカー、ITベンダーなどが参加するIndustrial Value Chain Initiative(IVI)は2021年3月11〜12日、オンラインで「IVI公開シンポジウム2021-Spring-」を開催した。今回はその中から、IVI 理事長の西岡靖之氏による講演「日本の製造業はGAFAの下請けになってしまうのか?〜ソフトウェアの力と組織知能〜」の内容を紹介する。

» 2021年03月12日 12時30分 公開
[三島一孝MONOist]

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 「つながる工場」実現に向け、製造業、製造機械メーカー、ITベンダーなどが参加するIndustrial Value Chain Initiative(IVI)は2021年3月11〜12日、オンラインで「IVI公開シンポジウム2021-Spring-」を開催した。

 今回はその中から、IVI 理事長の西岡靖之氏による講演「日本の製造業はGAFAの下請けになってしまうのか?〜ソフトウェアの力と組織知能〜」の内容を紹介する。西岡氏は、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon.com)などのプラットフォーマーがあらゆる産業に大きな影響を与える中、日本の製造業はどういう立ち位置を取り、どういう方向に進むべきかを解説。その中でIVIが果たすべき役割について説明した。

シリコンバレー型テック企業のエコシステムにどう対抗するか

 IVIは、IoT時代におけるモノづくりとITの融合によって可能となる新たなモノづくりの姿を“緩やかな標準”というコンセプトをもとに実現することを目的とした団体である。日本機械学会 生産システム部門の「つながる工場」分科会が母体とし、2015年6月に設立された。

photo オンラインで登壇するIVI 理事長の西岡靖之氏

 西岡氏は「IVIの設立時はドイツのインダストリー4.0などが製造業にとって大きなトピックとなっていたが、現在は同様にGAFAなどを含む大手ITベンダーの影響を真剣に考えなければならない状況となっている」と危機感を示す。

 製造業を取り巻く環境はここ最近、大きく変化してきた。技術開発型製造業の製品は、これまでは物理的(アナログ)だったが、機能の一部がサイバー(デジタル)に置き換わった。これによりアナログ製品として提供していたモノの市場がデジタル製品によって破壊された。デジタル製品は物理的制約がなく、機能やユーザー操作性が向上し、さらに物理的構成要素が少ないために製造コストが低下し、アナログ製品を駆逐する動きが起きてきた。

 一方、「コト」に目を向けると、シリコンバレー型テック企業がこれまでアナログだった製品やサービスをサイバー(デジタル)に置き換える動きが加速。従来企業がサービスとして行ってきたコトがデジタル化により破壊され、その収益をテック企業が獲得した。サイバー空間上でデジタル化されたサービスは時間と場所の制約がない他、限界費用が低いために価格競争力で既存のビジネスモデルを圧倒する動きが生まれている。

 さらに、これから起きようとしているのが、シリコンバレー型テック企業が既存製品をサイバー空間上でつなげ、サービスの構成要素として位置付けようとする動きである。西岡氏は「インターネットにつながった製品は、物理的制約がなく、さらに事後更新も可能であるため、機能やユーザー操作性が高まり、さらに物理的構成要素が下げられるために製造コストが下がり、価格競争力も高まる可能性がある。そしてネットワーク公開によりシェアを急拡大し、既存市場を駆逐するというシナリオは十分起こり得る」と西岡氏は語る。

GAFA型プラットフォーマーとの立ち位置をどう考えるか

 さらに、西岡氏はITベンダーが続々と自動車産業に参入しようとする動きを示し「こうした動きは、動力がエンジンからモーターに変わるという話ではなく、製品のアーキテクチャがモジュール型に変化し、ビジネスモデルが変わるという話を示している。こうした中で日本企業はどう対応すべきかということが考えるべきポイントだ」と指摘する。

 日本の製造業の強みとして、現場のすり合わせ力などが示される場合が多い。一方で、標準部品など水平分業型の組み合わせで機能を実現するモジュール型が苦手だと指摘される場合が多い。EVなどではモジュール化が進めやすいために、日本の製造業には不利だとする論調が報道などでも示されているが、西岡氏は「実はすり合わせ型でも得意な部分はコミュニティー内のすり合わせだけだ。企業間や技術(標準)間のすり合わせなどは苦手なのではないか」と課題を示す。

 こうした状況を踏まえて、あらためて講演テーマである「日本の製造業はGAFA(※1)の下請け(※2)になってしまうのか」という問いに対しては、「今の時点で考えるとそうなる」と西岡氏は述べる。

(※1)本稿では、GAFAに限らずシリコンバレー型エコシステムを展開するテック企業の総称として使用
(※2)ネガティブな意味だけではなく、製品やサービスを提供する企業を背後で支える役割という趣旨

 ただ、西岡氏は現状を踏まえてどういう立ち位置を目指すのかを明確にする重要性を訴える。「現在の状況から日本企業がGAFA型のプラットフォーマーになることは難しい。過去の投資や現在の収益力から考えて、今からスタートして差を埋めることは不可能だからだ。しかし、GAFA型モデルを独自でニッチ市場に展開し、そこで限定的なプラットフォーマーになるということは可能だといえる。また、競争優位なサプライヤーとしてGAFA型企業と付き合うことも可能だ。悲観的に見える状況かもしれないが、最終的に成功する方向性は残されている」と西岡氏は考えを述べる。

photo GAFA型プラットフォーマーに対し日本の製造業がとり得る立ち位置 出典:IVI
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