厳しい安全性が要求されるシステムにおけるAIの形式的検証では、システムが動作する際に起こり得る全てのシナリオをテストできることが求められます。例えば、自動運転車のテストは、人間のドライバーが実際の車両と道路を使って物理的に行っていますが、シナリオの種類が大幅に制限されるとともに、重要だが発生頻度の低いケースをカバーすることが現実的でないなどの課題があります。
2021年は、ソフトウェアツールの進化によって、物理的なテストを行わずに3Dシミュレーションを活用するようになるでしょう。エンジニアは、物理システムをモデリングするためのモデルベースデザイン(MBD)などの従来の手法とAIモデルを統合し、さまざまなシナリオにおける3Dシミュレーションに対して自動テストを実行するようになります。
AIをエッジベースのシステムに組み込むための選択肢が増えており、FPGAやECU(電子制御ユニット)、MCUなど、低コスト、低消費電力のデバイスでAIを活用するためのハードウェアサポートが拡大しています。ソフトウェアベンダーは、かつて組み込みシステムエンジニアのために用意されていた高度な技術を適用できる、非チップエキスパート向けの機能を拡張することで、このようなイノベーションを可能にしています。
AIモデルのサイズを小さくする量子化や剪定(プルーニング)などの技術や、深層学習のコミュニティーで利用可能な効率的な学習済モデルによって、2021年にはAIの効率的な実装が可能になり、AIベースシステムの採用もさらに広がるとみられます。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響があったにもかかわらず、AI関連プロジェクト全体の投資は減少していません。大きな影響を受けた業界の中には、短期間で投資の削減を決めた例もありますが、アナリストによれば、この削減分はこれまで以上に投資を増やした業界によって相殺されているということです。
多くの企業は、現在のタイミングを生かしてリモート学習によるスキルアップに投資しています。2021年は、エンジニアリングや科学のコミュニティーにおいて、より多くのAIプロジェクトに取り組めるような、AIをテーマにしたコースが人気になるでしょう。
阿部 悟(あべ さとる) MathWorks Japan インダストリーマーケティング部 部長
1989年から、本田技術研究所 基礎研究所で超低エミッションエンジン、希薄燃焼エンジンなどの制御システム基礎研究、Formula-1、Indy Carレースの電装システム開発部門で開発をリーディング。2003年からはContinental、AVLなどサプライヤーサイドでエンジン、ボディー、シャシーなどの電装製品の開発に従事。2012年から現職。これまでの経験を生かして業界マーケティング活動を通してモデルベース開発の推進に尽力している。
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