現地現物の3Dデジタルツイン化は製造業の現場に何をもたらすのか:製造業DX推進のカギを握る3D設計(7)(3/3 ページ)
大規模工場を3Dデジタルツイン化すれば、そこへの設備の入搬出をデジタルに検証できる。工場入り口にトラックで運ばれてきた大型の設備を、いかに工場に運び入れていくのかを3Dでシミュレーションした様子をご覧いただきたい(動画1)。
動画1 大型設備の搬入を3Dシミュレーション ※出典:大豊精機【TSK 大型設備の搬入据付工事シミュレーション】
大規模設備を所定の位置にフォークリフトで運び、それをつり上げて設置する。動画1では新規設備やトラック、フォークリフトなどは3Dモデルを利用し、工場内の既存設備は点群モデルで表現している。搬入経路に不安があれば、その部分だけ詳細に干渉をチェックすることも可能だ。ここまで、事前にデジタル検証しておけば、トラブル発生もなく計画通りに実行できる。
大豊精機では、2020年の緊急事態宣言時、この現地現物融合の3Dデジタルツインをリモートワークで活用できるかを検討した。その様子を動画2で確認できる。
動画2 現地現物融合の3Dデジタルツインをリモートワークで活用 ※出典:大豊精機【TSK 点群データのリモート操作】
大豊精機の工場設備を3Dデジタルツイン化したものを遠隔地で共有し、議論しながら仕事を進めている様子が分かる。現地現物も3Dデジタルツイン化してしまえば、これまで説明してきた手法によって、設計や現場確認、現地での入搬出作業などの手法を劇的に変化させることができる。デジタル化に取り残されてきた製造現場の働き方を大きく変えるヒントがここにある。
新型コロナ対策の切り札としてワクチンが期待されている。一方、ウイルスの方も次々と変異を繰り返し、ワクチンの有効性も定かではない。しかし、歴史をひもとけば、英国の医師エドワード・ジェンナー氏が人類初のワクチンを接種したのが1796年、コレラなど各種ワクチンが開発されたのは1879年以降であり、ワクチン接種の歴史は140年しかない。それ以前は、ワクチンも特効薬もなく人類はパンデミックを乗り越えてきたのである。だから、遅かれ早かれ、コロナ禍は終息する。その時、社会にはもう元には戻れない変化が起こるだろう。それは、政府や企業、人々のつながりを維持するための基盤が、アナログからデジタルに変わっていくという潮流である。その流れを妨げるのが製造業においては、現地現物であった。本稿では、それさえも点群モデルにし、3Dデジタルツイン化することで、CADやPLM情報と同等に扱えることを示した。コロナ禍から脱した後、これが日本の製造業の強みを支える手段の1つになれば幸いである。 (次回へ続く)
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鳥谷 浩志(とりや ひろし)
ラティス・テクノロジー株式会社 代表取締役社長/理学博士。株式会社リコーで3Dの研究、事業化に携わった後、1998年にラティス・テクノロジーの代表取締役に就任。超軽量3D技術の「XVL」の開発指揮後、製造業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を3Dで実現することに奔走する。XVLは東京都ベンチャー大賞優秀賞、日経優秀製品サービス賞など、受賞多数。内閣府研究開発型ベンチャープロジェクトチーム委員、経済産業省産業構造審議会新成長政策部会、東京都中小企業振興対策審議会委員などを歴任。著書に「製造業の3Dテクノロジー活用戦略」「3次元ものづくり革新」「3Dデジタル現場力」「3Dデジタルドキュメント革新」などがある。
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