コロナ禍に役立つハンズフリードアオープナーの設計製造手法に迫る(前編)デジタルモノづくり(1/3 ページ)

オフィス内での新型コロナウイルス感染症対策に役立つ製品として、手のひらを使わずに腕でドアを開くことのできる「ハンズフリードアオープナー」がある。このハンズフリードアオープナーを自社で設計製造した電通国際情報サービスの取り組みについて前後編で紹介する。

» 2021年01月27日 11時00分 公開

 2021年に入り、2020年から今までを振り返ってみると新型コロナウイルス感染症(COVID-19)一色の1年間でした。働き方も大きく様相を変えてテレワークの導入が多く進み、今後も「withコロナ」という考えのもと、感染拡大の防止を踏まえた働き方改革、スマートオフィス化が一層加速することが想定されます。

 筆者が所属する電通国際情報サービス(以下、ISID)も、COVID-19の感染防止対策を常に考え模索しています。その取り組みの中から、本稿では「ハンズフリードアオープナー」の設計と製造について前後編で紹介したいと思います。

「ハンズフリードアオープナー」とは

 そもそもハンズフリードアオープナーとはどのようなものなのでしょうか。このwithコロナ時代になって注目された言葉ではないかと思います。

 厚生労働省の情報によると、COVID-19の感染経路は大きく分けて2つ、「飛沫感染」と「接触感染」があります。「飛沫感染」とは、感染者のくしゃみなどで飛んだウイルスを含んだ飛沫を他者が吸い、感染するものです。これを避けるための“3密回避”は、主な対策として誰もが聞いたことがあるかと思います。

 一方、「接触感染」とは、くしゃみや咳を抑えた手のひらで、周囲の物に触れたときにウイルスが付着し、それが媒体となって他者を感染させるというものです。2020年12月末に、都営大江戸線に勤める運転士をはじめとする多数の職員がCOVID-19に感染しましたが、水道の蛇口を介した集団感染の可能性が指摘されています。このように、不特定多数の人間が使うものについては、できるだけ手のひらなどのウイルスが付着する可能性のある部分を接触させないように使用させることが1つの対策となってきます。

 ハンズフリードアオープナーは、手のひらを使わずに、腕でドアノブを引き開けるようにするアタッチメントであり、上記の接触感染に対して効果があるといわれています。実際の使用例を図1に示します。自ら使用する際のイメージをしながら見ていただくと、どんな物か想像しやすいかと思います。

図1 図1 ドアノブのアタッチメントとして設置した「ハンズフリードアオープナー」(左)。腕を使って押し下げることでドアノブが回転し、ドアが開く(クリックで拡大)

オフィスのドアに適した製品が見つからず自社での製作を決定

 まずは、筆者がハンズフリードアオープナーの設計について検討を始めたときの状況から話を始めさせていただきます。先述の通り、2020年初から、ISIDではオフィス内におけるCOVID-19の感染拡大を防ぐためのさまざまな対策を行ってきました。そして同年4月の緊急事態宣言の発出後には、腕でドアを開けられるハンズフリードアオープナーを居室の一部のドアに試験的に設置しようという検討が始まりました。しかしこの頃は、企業のオフィス向けに市販されている製品が少なく、ISIDオフィスのドアに適した製品を見つけられなかったため、自社で製作を試みることを決めました。

 単にドアノブに設置するハンズフリードアオープナーを製作すると言っても検討事項は多数あります。まず、実用に耐えるためにはオフィスの実際のドアノブの形状に合わせて、はめ合い部を設計する必要があります。今回は、代表的かつ一番汎用性のありそうな1種類のドアノブをオフィス内から選定し、その形状に対して設計を行いました。図2は、計測時のイメージ写真になります。

図2 図2 ISID品川本社のオフィス内にある代表的なドアノブの計測結果(クリックで拡大)

 次に、検討したのが使いやすさです。やはり多数の社員が使う上に、腕でドアを引き開けるという、今までの生活では行わなかった所作をするため、スムーズな使用感を実現するというのは最重要事項とも言えます。それを鑑み、腕が当たる部分の長さ、角度を決めるため多数の形状パターンを作成しました。図3はサンプルの一部になります。

図3 図3 長さや角度を変えて多数の形状パターンを検討(クリックで拡大)
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